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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

「地域共生社会」を考える(上) 公的責任を後退させるな

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 厚生労働省が近年、住民参加の地域福祉を強調しています。「我が事・丸ごと」「地域共生社会」と銘打って、いろいろな制度変更や施策を進めようとしており、福祉のあり方が大きく変わっていく可能性があります。

 縦割り行政の弊害を減らす総合的な相談支援体制づくり、住民同士の支え合い、孤立の防止といった理念には、時代の変化に対応した積極的な面が確かにあると思います。

 同時に、懸念される面もいくつかあります。行政の公的責任を縮小して財政支出を削るのではないか、現実に住民が担えない問題がたくさんあるのではないか、ソーシャルワークの難しさを軽く見ているのではないか、福祉の地域格差が大きくなるのではないか、といった点です。

「他人事」や「縦割り」をやめる

 厚労省は2017年2月7日、『「地域共生社会」の実現に向けて(当面の改革工程)』というプランを公表しました。「我が事・丸ごと」と称する政策の方向性をまとめた文書で、介護保険、障害者福祉、生活困窮者自立支援、子育て支援などの制度の見直しを進め、20年代初頭の全面展開をめざすとしています。安倍政権の看板政策の一つですが、厚労省内のチームが15年9月にまとめた「新福祉ビジョン」がベースになっており、基本的には官僚主導と見てよいでしょう。

 大まかな内容は、(1)支え手・受け手という関係を、地域住民の主体的な支え合いに変える (2)制度・分野ごとの縦割りを改め、総合的な相談支援体制をつくる (3)ボランティアやNPOなど多様な担い手の参画、民間資金の活用、産業との連携などで地域のつながりを強化する (4)保健・医療・福祉の専門職養成に共通基礎課程を設けて看護師や保育士、社会福祉士など複数の資格を取りやすくして、人材が様々な分野で活躍できるようにする――というものです。

 誰かの困りごとを他人事ではなく、「我が事」と住民が受け止めて解決に取り組むようにしよう、制度ごとではなく「丸ごと」の相談に乗ろう、というわけです。

 具体的には、たとえば身近な地域での総合的な相談支援体制について、厚労省の地域力強化検討会の最終とりまとめ(17年9月12日)は、介護保険の地域包括支援センターを拡充してあらゆる相談を受ける、地域住民による相談窓口を設けてコミュニティーソーシャルワーカー(CSW)がサポートする、自治体の各種相談窓口を集約する――といった複数の方法を挙げています。

お役所仕事への反省を明確に

 住民参加の地域福祉という理論は、1970年代から日本で独自に発展してきました。今回、それを強化する政策が出てきた背景には、単身・高齢・ひとり親の世帯の増加や、地域のつながりの希薄化に伴う孤立の問題、複合的な課題を抱えたケース(たとえば高齢の親と中年になったひきこもりの子、離婚して仕事も見つからない軽度知的障害の女性)の増加、人口減少による地域の衰退のおそれなどがあります。そこで住民参加によって地域の力を高めようというのは、一つの考え方でしょう。

 ただし、筆者からは注文があります。この政策が、これまでの自治体行政のあり方への反省でもあることを明確にしてもらいたいのです。部署間で相談者をたらい回しにし、担当分野以外は知識がなく助言もしない「縦割り行政」、情報を得て自分から制度利用を求めた人にしか対応しない「申請主義」、たとえ必要と思っても余計なことはするなという「責任回避」……。

 そういうお役所仕事では、福祉はうまくいかないから改革するのだという問題意識を自治体、とくに市区町村の職員が持たないと、本当に役に立つ相談支援体制は築けず、制度の谷間で苦しむ人や声を上げられない人を助けられないでしょう。

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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