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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

先天性の難病~絶望の果てに両親が見たもの(下)

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 日本に20人もいない難病である「ゴーシェ病・急性神経型」に かか った凌雅君は、生後1歳6か月で人工呼吸器を付け、自宅へ帰りました。2歳になってもリハビリで何の効果も出ず、両親は失意のどん底にありました。その時、ある情報に接します。

骨髄移植に希望を託したが…

 ゴーシェ病の家族の集まりで勉強会に参加し、そこでゴーシェ病には骨髄移植という治療法があると知りました。ゴーシェ病は、体のすべての細胞で、糖脂質を分解する酵素を作ることができません。しかし、他人から骨髄の移植を受ければ、骨髄細胞は無限に増えていき、それらが酵素を作ってくれるというわけです。

【名畑文巨のまなざし】 生まれてきた赤ちゃんの顔を見てお母さんは、「ダウン症では」と直感したそうです。でも、普段から保育士として、障害のある子どもの面倒も見てきたお母さんは、そのかわいさを知っていました。わが子に障害があることにも、全く抵抗はなかったそうです。逆に、気を遣った医師がなかなか伝えてくれなくて、やきもきしていたのだとか。大阪府豊中市にて。

【名畑文巨のまなざし】
生まれてきた赤ちゃんの顔を見てお母さんは、「ダウン症では」と直感したそうです。でも、普段から保育士として、障害のある子どもの面倒も見てきたお母さんは、そのかわいさを知っていました。わが子に障害があることにも、全く抵抗はなかったそうです。逆に、気を遣った医師がなかなか伝えてくれなくて、やきもきしていたのだとか。大阪府豊中市にて。

 両親は骨髄移植について主治医に相談しました。移植を成功させるためには、骨髄の提供者と凌雅君の白血球の型が一致していなければなりません。その可能性が最も高いのは凌雅君の姉です。その確率は4分の1です。もし姉との型が不一致であれば、骨髄バンクから探さなければならなくなります。その確率は、数万から数百万分の一に下がります。

 病院で姉の白血球の型を調べて見ると、幸運にも凌雅君と一致していました。両親は思いました。「これは神様が移植しろと言っているに違いない」。特に父親は、「ついに病気が治る時が来た」とさえ思いました。

 しかし、主治医は、骨髄移植を行うことに対し、首を縦に振りませんでした。移植をする前には、大量の抗がん剤投与と、全身への放射線の照射をし、骨髄細胞を全滅させることで、骨髄を から にする必要があるのです。それは、場合によっては感染症で命を失いかねないことを意味します。また、移植が成功して酵素の補充療法が不要になったとしても、すでに重い障害がある脳は元には戻らないのです。

 気管切開も、呼吸器のケアを自宅ですることも、両親が医師にお願いして実現させたことです。骨髄移植についても、危険を伴うのは覚悟の上でした。ゴーシェ病という恐ろしい病気と対決するために必要だと考え、希望を医師に伝えたのです。しかし今度は、医師から説得される形で骨髄移植を断念しました。 一縷いちる の望みが、絶たれました。

4人部屋での出会いが家族を変えた

 治らない病気。そのことを父親は、心の底から痛感させられました。リハビリでも良くならない。治療法もない。両親は完全に諦めざるを得ませんでした。

 しかし、それは自暴自棄になるということではありませんでした。凌雅君の姉は幼稚園に入ったばかりです。姉をしっかりと育てていくという現実的な目標が両親にはありました。また、凌雅君のケアもやっていかなければなりません。居直るような気持ちにはなれませんでした。

 母親は、凌雅君が生まれてきた意味を、何度も心に問いました。答えが見つからないうちに、やがて自分たち家族は孤独ではないことに気付きます。

 凌雅君は体調を崩すと、こども病院の4人部屋に入院しました。同じ病室には、3人の重症児が入院していました。母親たちは、明るく たくま しく、力強く生きていました。子どもたちは、やがて次々に命を落とします。凌雅君の母親は、そのたびに葬儀に足を運び、「子どもが死ぬなんてあってはならない」と思いました。

 子を失った母親が声をかけてきました。「うちの子の分まで、凌雅君をかわいがってね。応援しているよ」。

 凌雅君の母親は、「絶対に生き抜こう」と思いました。自分たちが母親たちからもらった勇気を、次に入院して来る子どもたちに伝えなくてはならない。命の 松明たいまつ をつなげることが、自分たち家族の役割であり、凌雅が生まれてきた意味なんだと。

医学の常識を越えて

 凌雅君が2歳を過ぎた頃、両親は苦しみから解放されつつありました。わが子の病気を受容したと言ってもいいのかもしれません。もちろん、完全に吹っ切れたわけではありません。その後も、くり返し悲しみは襲ってきました。そういう時は、亡くなっていった子どもたちの顔をまぶた の裏に思い浮かべ、その子たちの分まで精一杯生きようと心に誓いました。

 凌雅君は現在、中学3年生になっています。短命とされる難病と闘った彼と両親は、医学の常識を覆したのです。(松永正訓 小児外科医)

 *呼吸器を付けた凌雅君の日常生活は、著書「呼吸器の子」(現代書館)でも描いています。

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inochihakagayaku200

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

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2件 のコメント

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息子の看取り

セブン

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私の息子も大腸癌にて30歳にて他界致しました。5年経ちましたが、悲しみは薄れません。医学が進歩してどんな病でも親より子が先立つ事の無い時代が来る事を望みます

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すえぞう

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わたしの子も先天性代謝異常です。
対処療法としての臍帯血移植、筋緊張がひどくなり機能的脊髄後根遮断術、痩せすぎて胃ろう、廃痰ができなくて気管切開、また筋緊張がひどくなったらバクロフェン髄注療法…確かにキリがない。
もちろんどれも本当に必要か、その後どうなるのか、たくさんの人に話を聞いて慎重に選んできました。
世の中のみなさんの意見はキビシイのですね、やっぱり。
親のエゴと言われても、どんな状態でも、子どもには生きていて欲しい。
この思いが、なによりも強いです。
最期に「生まれてきて良かった」と思ってもらえるように、毎日全力投球するのみです。
先生のようなお医者さんがいてくれること、励みになります!

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