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「1日8千歩」が健康に良い歩き方…マラソンやジョギング、しない方が良い?

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なぜ朝より夕方か

――「夕方歩く」というのはなぜですか?

青柳  朝歩く人が多いかも知れません。寝ている間に汗をかき、呼吸で口から水分が抜けたりするので、血液どろどろの状態で起きます。そのため、朝は動脈硬化を起こしやすく、朝起きて1時間が心筋梗塞や脳梗塞が一番多い時間帯です。それを避けるため、朝歩かないという消極的な理由があります。ただ、水を飲むと20~30分で小腸で吸収が始まります。その後なら、普通に歩いていただいて結構です。夕方が良いというのは、体温が一番高い時なので運動しやすいからです。車もエンジンが温まっていると調子が良いですよね。ケガも少なくなり、効果も上がりやすいのです。

――体も温まり、筋肉も温まっている。

青柳  体温が上がっていないと、夜眠れないのです。年を取って眠れなくなるのは、夕方体温が上がりにくいのが原因です。体温が高い時にもっと高くし、体温にメリハリをつけるのがとても大事です。夜の寝付きも良くなります。

――夕方は仕事中だし、朝か夜しか時間が取れない、という人は?

青柳  朝はしっかり水を2、3杯飲み、小腸で吸収が始まってから歩いていただく分には、問題ありません。夜は、寝る1時間前までの間は避けて下さい。交感神経が高ぶり、逆に眠れなくなります。寝る間際は避けた上で、血糖値が高い方は、夕食後に歩くのが一番良いかも知れません。

――天気が悪いとか、外出できないという場合は?

青柳  休んで構いません。1週間単位で帳尻を合わせていけば十分です。やらない日があって、やる日があって、平均して8千歩。

――「毎日必ず8千歩だ」との固い決意で取り組むものではないのですね。

青柳  それだと、続かないと思います。やらない日があって良く、やりたい日は多いに歩く。1万2~3千歩の日があっても、平均で超えなければ結構。そう考えていただければ。

――階段の上り下り以外にも、家の中で体を動かす方法はありますか。

青柳  その場での足踏みも良いです。青竹踏みで中強度の運動がたくさんできます。掃除機もかけ方次第です。掃除機の本体を持ちあげながらかけるとか、何でも良いのです。エネルギー消費量がその人の体力の半分ぐらいに相当すれば、種類は問いません。二足歩行の動物である我々にとって歩くのが一番わかりやすく、活動の機会が多いというだけです。

「長寿遺伝子」のスイッチが入るのに2か月

――もうひとつの「2か月間続ける」の意義は?

青柳  細胞レベルでの効果が見られるようになるまでが、2か月。最近、「長寿遺伝子」というのが見つかりました。長寿遺伝子にスイッチが入ると、美容にも効果があり、長寿にもなる。この遺伝子は、全員が持っています。その遺伝子にスイッチを入れるのに2か月かかります。20分を2か月です。

――長寿遺伝子は、どんな働きをするのですか?

青柳  老化に伴い、細胞はダメージを受けます。長寿遺伝子にスイッチが入ると、活性酸素によって受けた遺伝子のダメージを修復する働きに結びつきます。ただし、運動をやめると2か月でスイッチが切れます。ですから、続けることが大事。「たくさんやる」のではなく、続けるのが大切です。

よい歩き方が病気を遠ざける

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 青柳さんは群馬県中之条町の65歳以上の高齢者全員、約5千人の歩数と中強度の歩行時間を17年間にわたり、追跡調査を続けている。その結果、歩きと病気の予防に相関関係があることを突き止めた。1日5千歩で7分半以上の中強度の歩行をした人には、脳卒中や心疾患、認知症、要介護などの予防に効果があり、さらに1日8千歩で20分の中強度の歩行をした人には、糖尿病などの予防効果があることがわかった。

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 図は、横軸が歩数、縦軸が中強度の運動・歩行の分数。この相関で、遠ざける効果を期待できる病気が異なるのが分かる。

青柳  この図で大事なのは、ピンクのラインです。量と質のバランスが良いのがこのラインです。例えば運動ばかりしていたり、立ち仕事が多過ぎたりで、このラインを大きく外れると、健康を害します。ラインの右上から左下へ、若い時から年と共に段々活動量が下がっていき、病気の種類が変わります。動脈硬化が進む、という観点で見ると、血圧、血糖値が高い病気でない状態から、薬を飲む状態になります。糖尿病になると、活性酸素が出てきて、血管の内壁を痛め、動脈硬化が進みます。動脈硬化が進めば、今度は詰まりどころが悪いと脳梗塞、心筋梗塞。脳で詰まると血管性の認知症。そして寝たきり、死亡に至ります。「5千歩7分半」が、命に関わるような病気を予防できる点で、とても重要なラインです。ほとんどの病気を予防しようと思ったら「8千歩20分」。この中の病気は、全部予防できることになります。

――図の「7千歩15分」のところに「一部のがん」とあります。歩くことで、がんを遠ざけられるのですか?

青柳  運動が、がんに対する抑制効果を持つことは、既に世界中でコンセンサスが得られています。効果がある5種類がわかっています。結腸がん、直腸がん、肺がん、乳がん、子宮体がんです。

――これは、患者さんの数が多いですよね。

青柳  多いです。死因のトップクラスがその5つの中に含まれます。

――ピンクのラインの右上から左下に行くほど、病気が重くなっていますね。

青柳  健康づくりは、この進行をどこで止めるか、というだけだと思います。「8千歩20分」、その次なら「5千歩7分半」というのが、命に関わる病気の予防。寝たきりの予防であれば、家の中に引きこもり、座りがちな生活から抜け出す。例えば、トイレに起きたら少し余分に歩いて戻るとか。10時間以上座りっぱなしだと、がんになりやすいこともわかってきています。

――これだけの病気を抑制できれば、医療費削減の効果は大きいですね。

青柳  ここに掲げた病気だけで、医療費の3分の2以上を占めますから、かなりの削減効果があります。今、中強度の運動への取り組みは全国で随分広まってきまして、自治体によっては参加者の医療費が、年間で1万~3万円減ったとの報告もあります。

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中強度の歩きに注目した自治体活動

 横浜市は、4年前から「横浜ウォーキングポイント」という取り組みを始めた。18歳以上の市民の希望者に歩数計を無料配布。歩数によってポイントがたまり、商品券が当たるなどの特典がある。歩数計のデータを端末で登録すると、歩いた記録が自分のパソコンでも一目瞭然にわかる。

 埼玉県蕨市は、市民の希望者に活動量計を無料で貸し出している。銀行の店内の一角に「健康アップステーション」というスペースが設置されていて、参加者がステーションで月1回データを読み込むと、中強度の運動をどれぐらいやったかが、ひと目でわかる。ステーションでは、歩き方の相談やアドバイスも受けられる。

――いずれも青柳さんが助言している事業ですが、自治体の狙いはどんな点にあるのでしょうか。

青柳  もちろん住民の健康が第一ですが、その結果、医療費も削減できたら良い、ということだと思います。

――多くの自治体に広まっていきそうですか。

青柳  今は何百という自治体で行われています。健康ステーションが銀行にあるのも、良いですね。年金を下ろしに行って、そのまま活動量計を「ピッ」ってやれば良いのですから。調剤薬局やドラッグストア、百貨店など、いろいろな場所が健康ステーションになっています。

――知らないだけで、自分が住む自治体にもこうした取り組みがあるかもしれないので、探してみた方が良いですね。

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