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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

先天性の難病~絶望の果てに両親が見たもの(上)

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 わが子に重い病気や障害が降りかかった時、両親がその苦痛を受容するためには、いったん絶望の底まで落ちなければいけないのかもしれません。

生後2か月で「視線がおかしい」

 今から14年前に凌雅君は生まれました。お姉ちゃんに続く待望の男の子でした。その凌雅君に生後2か月ごろから異変が起きました。健診を受けた際に、視線がおかしいと、医師に指摘されたのです。また授乳の時には、頭をのけぞらせてしまいます。飲みながらヒューヒューとのどから音を立て、授乳が終わると、のどがゴロゴロしました。この時期、気管支炎の診断で2回ほど入院を経験しましたが、症状は退院後も続きました。

【名畑文巨のまなざし】  赤ちゃんはダウン症です。生まれて間もなく心臓疾患で手術をし、お母さんは心配が絶えなかったようですが、「この子がいたおかげで、本当にいろいろな経験をさせてもらいました」と前向きです。「もしお友達に、お腹(なか)の赤ちゃんがダウン症とわかった人がいたとしたら、あなたはどうアドバイスしますか?」と聞くと、「なにも心配いらないから産めばいいわ、と言います」。彼女の言葉から、乗り越えてきた強い心を感じました。南アフリカ共和国・プレトリア市にて。

【名畑文巨のまなざし】
 赤ちゃんはダウン症です。生まれて間もなく心臓疾患で手術をし、お母さんは心配が絶えなかったようですが、「この子がいたおかげで、本当にいろいろな経験をさせてもらいました」と前向きです。「もしお友達に、おなかの赤ちゃんがダウン症とわかった人がいたとしたら、あなたはどうアドバイスしますか?」と聞くと、「なにも心配いらないから産めばいいわ、と言います」。彼女の言葉から、乗り越えてきた強い心を感じました。南アフリカ共和国・プレトリア市にて。

 生後5か月になり、凌雅君はこども病院の眼科を受診しました。眼科医は診察するなり、「これは斜視ではない、脳の病気だ」と言いました。脳のX線CTを撮影すると、脳に萎縮が見られました。眼科の先生は、凌雅君を神経科に回しました。この時に母親は、「自分の子どもは障害児として生きていくのだ」と覚悟したそうです。ただ、それは決して絶望的な気持ちではなく、これまでの経緯を考え、「やはりそうだったのか」と納得した思いでした。

 ところが神経科を受診してみると、医師はすぐに、神経の病気ではないと言いました。「おそらく先天性代謝異常でしょう」という説明と共に、今度は代謝科に回され、検査入院となりました。代謝科の主治医は日本でも屈指の専門家でした。

ネットで見た恐ろしい言葉

 凌雅君は「ゴーシェ病・急性神経型」という先天性の難病でした。体内の糖脂質を分解する酵素を生まれつき欠いているために、糖脂質が脳や肝臓や骨に蓄積してしまう病気です。蓄積した糖脂質は脳に強いダメージを与えます。主治医は病名を告げ、2週ごとに点滴で酵素を補えば、病状はある程度抑えられると言いました。ただ、将来的な見通しについては、詳しい説明がありませんでした。

 診断された日、両親はインターネットでゴーシェ病・急性神経型について調べました。そこには恐ろしい言葉がありました。生命予後は2歳まで。つまり、2歳までしか生きられないというのです。その文章に行き当たったとき、夫婦は地獄の底に落ちたような心境に追い込まれました。

 母親は思いました。「この子が障害児として生きていくのであれば、育てていく覚悟を持つことができる。だけど2歳までの命なんて耐えられない」「2歳までの寿命ならば、あと残り1年ちょっとではないか? この子は何のために生まれてきたのか? 早く死ぬために生まれてきたのだろうか?」……。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー  短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)など。2017年11月、『子どもの病気 常識のウソ』(中公新書ラクレ)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催する計画。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

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