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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

非正規労働は、非効率である

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労働者をコストの面からしか見ない風潮

 非正規労働が拡大するきっかけになったのは、1995年に当時の日本経営者団体連盟(日経連)がまとめた『新時代の「日本的経営」-挑戦すべき方向とその具体策』だと言われます。この報告書は、労働者を長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、 雇用柔軟型の3タイプに分けることや、職能資格制度の導入、年功的定期昇給の見直しを進めることを提言しました。

 その後、日本の企業の多くは、人件費を節約するために非正規雇用や外部委託を増やしました。国は、専門職に限られていた労働者派遣法の対象職種をどんどん広げました。民間だけではありません。地方自治体や国の省庁も、非正規公務員や民間委託を大幅に増やしました。

 業績や経営環境の本当に厳しい企業がコスト削減を図るのはやむをえない場合がありますが、そうでない企業まで、人件費を削ることによって利益率を高めてきました。労働者をコストの面からしか見ない風潮、言い換えると人を大切にしない傾向が、経営側に広がったように感じます。

経済停滞をもたらした要因の一つでは

 日本の経済は90年代からの20年余り、停滞を続けました。その要因の一つとして、働き手が持つ力を十分に生かさないという非正規労働のマイナス面が影響していなかったでしょうか。人間のやる気を高め、知恵と工夫を生かすことは、あらゆる事業や組織の浮沈にかかわります。非正規労働者の「被差別感」をなくし、職場への「参加感」を高めることが大切です。本当の意味での企業の生産性や発展可能性、行政ならサービスの質の面からも、雇用のあり方を考え直すべきだと思います。

経済循環、社会保障財政にも影響

 民主党政権だった2012年の労働契約法改正で、有期雇用と無期雇用の不合理な労働条件の格差が禁止されたほか、有期雇用が更新されて13年4月以降の契約期間が通算5年を超えることになるときは、労働者が申し込めば無期雇用へ転換することが義務づけられました。この規定の運用は18年4月から本格化します。ただし、企業が5年になる前に雇い止めにするといった抜け道も指摘されています。

 自公政権ではどうか。金融緩和で株価は上がり、大企業の利益は膨らみましたが、経済全体の伸びは、それほど芳しくありません。賃金の抑え込み、格差の拡大が、大多数の国民の消費力不足を招き、内需を低迷させています。賃金が少ないと年金・医療・介護などの保険料収入も減り、社会保障制度の運営にも悪影響を及ぼします。

 それらの問題は安倍首相も認識しているようで、政府主導で賃上げを求め、16年8月の記者会見では「同一労働同一賃金を実現し、非正規という言葉をこの国から一掃する」と語りました。とはいえ、実効性のある具体策を打ち出せたとは、まだ言えない状況です。

 企業は目先の利益を追い求めがちなので、自主的な改善に期待するだけでは、うまくいきません。非正規の雇用に対する公的な規制を強めることと、正規雇用を後押しする税制などの誘導策が必要だと思います。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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