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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

網膜の難病「加齢黄斑変性症」…新薬の利用が進まない理由

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 加齢 黄斑おうはん 変性症は、網膜で最も感度が良い中心部分である「黄斑部」が加齢によって傷む難病です。そのうち、大半を占めるのは、網膜の下に新たに出血しやすい異常な血管ができる「 滲出しんしゅつ 型」です。この症状に対し、2008年に新たな治療薬が登場しました。体内の血管内皮増殖因子(VEGF)の異常な働きによって「新生血管」ができるのを抑える「抗VEGF抗体(抗血管新生薬)」で、眼球へ注射します。

 抗VEGF抗体は、その後、黄斑部の 浮腫むくみ が生じる「病的近視性脈絡膜新生血管」、「網膜静脈閉塞症(分枝閉塞症を含む)」に伴う黄斑浮腫、それに「糖尿病黄斑浮腫」に対する治療薬としても承認され、使えるようになりました。

 ただし、いずれの場合も、1回の注射だけで済むわけではありません。当初は1か月ごとに、あるいは1か月以上あけて、繰り返し治療することが必要です。

 抗VEGF剤は、黄斑の新生血管をなくすことや、浮腫の軽減に明らかな効果を発揮する一方、全身や目の副作用としては注意すべき点があり、今も調査が行われています。

 それというのも、この治療薬を目に注射するといっても、多少は全身に回り、不都合な効果を及ぼすことがあるのです。具体的には、心臓や脳の血管の閉塞などを起こす可能性があるのです。

 とくに、脳梗塞、脳出血、一過性脳虚血発作の既往症があったり、発症しやすい背景のある人については、「使用してはいけない(禁忌)」とまではいかないけれど、慎重に投与することになっています。副作用としては、感染による眼内炎(0~2%)が最大の問題で、どの医療機関でも相当注意を払っています。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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