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命の絆 臓器移植法20年

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[命の絆 臓器移植法20年](5)臓器移植、「普通の医療」へ一歩ずつ…

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臓器移植、「普通の医療」へ一歩ずつ…

石井さん(左から2番目)の呼びかけで映画館に集まった患者仲間(東京・渋谷で)

 「急なお話ですが、息子さんの臓器提供を考えていただけませんか」

 そう告げる医師を前に、両親は言葉を失い、ぼう然と涙を流す。

 フランスのベストセラー小説を映画化した「あさがくるまえに」の1シーン。

 サーフィンの帰りに交通事故にあった少年(17)が脳死の状態となり、両親は悩んだ末に提供を決める。そして心臓病の女性に移植の機会が訪れるが、彼女もまた葛藤していた。

 「人間には寿命がある。人の心臓を使ってまで……」

 東京・渋谷で公開された初日の9月16日、移植を待つ人や移植経験者らのグループが映画館に集った。呼びかけたのは東京都東大和市の石井 さとる さん(35)。拡張型心筋症を患い、補助人工心臓を胸に埋め込んだ体で移植の機会を待つ一人だ。

 この作品の舞台であるフランスは、100万人あたりの臓器提供数は2015年で27・5。対する日本は0・7。欧米と違って著しく少ない原因は、制度の違いだけでなく、独特の精神文化にあるという見方も長年されてきた。

 ただ、映画で描かれていたのは、日本人と共通する人々の心情だった。深い悲しみのなか、わが子の臓器提供を巡り心乱す親。助かりたい思いと、他人の臓器をもらって生きながらえることへの後ろめたさに揺れる患者――。

 石井さんは「国や文化、制度が違っても、人の気持ちは同じなんですね。日本でもいつか、臓器移植が普通の医療になる日が来ればいいなと思いました」と感想を語る。

 集った仲間は、まさに焦りと葛藤のなかにある。日本で心臓移植を必要とする人は、16年末時点で556人。補助人工心臓の進歩で長く移植を待てるようになり、毎年100人規模で急増している。年60件前後という脳死の臓器提供数との差は大きい。

 世界では渡航移植の自粛が求められているが、移植を待つ時間がなく、海外に渡る人も後を絶たない。

 国内を見渡せば、病院の体制が整わず、家族が希望しても提供がかなわないケースもある。臓器をあっせんする日本臓器移植ネットワークでは移植を受ける患者の選定ミスが相次ぎ、家族に説明するコーディネーターも人材不足といわれる。

 それでも最近、わずかに光が見え始めた。1997年に臓器移植法が施行されてから10年余、年ひとけた程度だった脳死ドナーの数はここ数年、確実に増え続けている。2010年の法改正で、家族の承諾のみでも提供できるようになったことが転換点になった。

 国のアンケートによると、国民の半数近くが提供に前向きで、若い世代ほど肯定的な傾向があり、意識の変化も見られる。

 施行から20年を迎えた臓器移植法は、第2条にこんな基本理念を掲げている。

 死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない

 ドナーや家族の思いを、移植でしか助かる道のない人へできる限りつなげていくこと。課題は今後に引き継がれた。

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