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[命の絆 臓器移植法20年](4)1700万円払い中国で移植手術…違法な臓器売買か、仲介団体の実態は闇

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1700万円払い中国で移植手術…違法な臓器売買か、仲介団体の実態は闇

中国で移植を受けた患者について、関西の国立大学病院が警察へ情報提供した文書(画像は一部修整しています)

 1年以内に人工透析が必要になる――。

 静岡県の男性(67)は2014年、かかりつけ医に告げられた。腎臓の難病による慢性腎不全だった。

 1回4時間あまりかかる透析に週3回通う生活への不安。根本的な治療は移植しかないが、ドナー(臓器提供者)の少ない日本で、待機期間は平均15年近い。何とかならないか。思わずネット検索した。

 すると、海外で臓器移植を受ける手助けをするというNPOのサイトを見つけた。後日、事務所を訪ねると、担当者に言われた。

 「中国へ行きましょう」

 手術費や滞在費などすべて込みで約1700万円。男性は同年12月、担当者に伴われて中国に渡った。ドナーが現れるまでホテルで40日待ち、移植で実績があるという天津の大病院で15年1月に移植を受けた。

 帰国後、経過を診てもらおうと浜松医科大学病院を訪れると、診療してもらえなかった。「臓器売買の絡むような腎移植をした患者の診療は行わない」という院内の申し合わせが理由だった。

 臓器移植法は、臓器売買を禁じている。渡航移植に厳しい目が向けられる世界情勢もある。患者数に比べたドナー不足は、各国共通。先進国の国民が途上国などでお金を払って臓器提供を受ける移植ツーリズムへの批判が高まり、国際移植学会が08年、自国の患者は自国で救うよう求める「イスタンブール宣言」を採択。世界保健機関(WHO)は10年、同様の方針を盛り込んだ新指針を出した。

 以後、渡航移植は難しくなった。米国で子どもの心臓移植など正規の受け入れが一部あるのみという。

 男性は、診療に応じている東京都内の病院に通い、経過は良好という。しかし、「診療拒否は納得できない」として15年7月、浜松医大を提訴。「NPOに必要な費用を払っただけで、臓器売買した覚えはない」と話す。大学側は「コメントできない」とするのみだ。

 NPOは「必要とする患者がいて移植の道があるなら、これからもできることをやっていく」と語る。

 NPOは、どのようなルートで中国の病院や医師と連携を持ち、ドナーを確保しているのか。詳細については、取材に対し、「後日、返信する」とし、18日までに回答はなかった。

国内医療機関、警察に出頭勧めたが…

 他にも、似た状況の患者が訪れたという病院はある。関西の国立大学病院は5年前、そうした患者に、「臓器移植法に抵触する可能性がある」と話して警察に出頭を勧め、初回のみ診療した。この大学病院の内部文書などによると、病院はその後、最寄りの警察署にこの事実を通報した。

 東京都内にある私立大学病院の泌尿器科医も「実態不明の団体の仲介で、中国で腎移植を受けたという患者が来院したことがある」と打ち明けた。

 日本臓器移植ネットワークに登録して腎臓の移植を待つ患者は1万2000人を超える。ドナーは脳死、心停止合わせて16年では年間96人に過ぎない。

 国内の医療機関を介さず、独自に海外移植を仲介する団体は、以前より減ったとされてはいるものの、いまもネット上に複数ある。ドナー不足のなか、扉をたたく患者がいる。どれくらいの患者が渡航しているのか、厚生労働省や学会も実態は把握していない。

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