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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(52) 生活保護でも大学へ進めるようにしよう

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堺市の調査で浮かび上がった苦しさ

 堺市と大阪市立大は16年10~12月、堺市内の生活保護世帯に同居して世帯分離で大学・短大・専門学校に通う学生の生活実態を調査しました(有効回答106人)。日本学生支援機構による14年11月の全国の学生(自宅生)への調査と比べると、大きな違いがいくつか浮かび上がりました。

貧困と生活保護(52) 生活保護でも大学へ進めるようにしよう

 収入の内訳(必要なお金の出所)は図の通りです。一般学生の場合、家庭からの給付56%、奨学金21%、アルバイト20%と、家庭からの給付が中心なのに比べ、堺市の世帯分離学生では、家庭からの給付6%、奨学金71%、アルバイト21%と、奨学金が頼みの綱です。

 授業期間中に週3日以上のバイトをしている率は、一般学生の49.9%に対し、世帯分離学生では65.9%と高く、日常的にアルバイトをせざるをえない状況もうかがえます。

 経済的に勉強を続けることが難しいという不安を抱いている率は、一般学生では17.3%でしたが、世帯分離学生では52.8%にのぼりました。

 堺市の世帯分離学生に奨学金の卒業までの借り入れ見込み総額を尋ねると、大学生では400万円以上が74.1%、短大・専門学校生も300万円以上が56.8%を占めました。卒業して社会に出てからも、重い返済負担がのしかかるわけです。

 厚労省は今年度中に、堺市と似た調査を全国規模で行う予定です。

不利をなくし、貧困の連鎖を防ぐ

 根本的な対策は、世帯分離せずに大学などへ進むこと(世帯内進学)を認めることです。さらに、夜学などに通う場合も含め、学生が働いて得た収入から学費など就学に必要な額を除外して、その分の保護費の減額を避ける仕組みが必要です。

 高校を出たら働くことを優先しろ、という方針を、学業を優先してもよい、に変えればよいのです。進学できるかどうかは資格の取得や職業選択を左右するし、学歴の格差は社会に出てからの収入格差にもつながります。本人の勉学能力や意欲とは関係ない理由で進学が妨げられたり、奨学金という名の借金を多額に背負わされたりしている現状を改め、次世代への貧困の連鎖を防ぐべきだと思います。中長期で見れば、安定収入を得られる人を増やすほうが、国家財政上もプラスではないでしょうか。

 生活保護を受けておらず、経済的に苦しい学生もいる中で、生活保護世帯の学生への支援に消極的な見方もあります。しかし、世帯内進学は、生活費を保護費でまかなうだけで、学費などは学生が自ら工面しなくてはならないことには変わりなく、保護世帯の学生を特別に優遇するわけではありません。

政治は真剣に動くのか

 生活保護世帯の子どもの進学支援は、超党派の「子どもの貧困対策推進議員連盟」が今年4月の提言で最優先課題に挙げ、政府も6月9日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)に盛り込みました。厚労省は来年度の概算要求で予算の確保を求めました。

 ただ、厚労省が現在、検討しているのは、進学時の一時金の給付(二十数万円程度)と、世帯分離した場合の住宅扶助の減額をやめることの2点のようです。社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」の議論を踏まえて方針を決めますが、その程度にとどまらず、世帯内進学を認めるところまで進めないでしょうか。

 先の総選挙では、ほとんどの政党が教育費負担の軽減や教育の無償化を掲げました。政権与党の自民、公明も生活保護世帯の子どもの進学支援を公約に入れていました。政治の真剣な決断が期待されます。(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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