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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(52) 生活保護でも大学へ進めるようにしよう

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 貧しい家庭に生まれた子どもは、高等教育を受けるために多大な苦労をするのが当然でしょうか? 経済的な事情で進学をあきらめる子がいてもしかたがないのでしょうか?

 いま、焦点になっているテーマの一つが、生活保護世帯の子どもの大学などへの進学です。現在の生活保護制度の運用は、保護世帯の子どもが昼間の大学・短大・専門学校で学ぶことを認めていません。進学するには、その子どもを同居していても生活保護世帯から外す「世帯分離」が必要です。すると、その子の分の生活扶助が出なくなり、住宅扶助の額も減ることがあります。

 そうなると子どもは、自分の生活費と学費などを自分で調達しないといけなくなります。その道を選んだ学生の多くは、アルバイトに追われ、奨学金を借り、卒業後も多額の借金を背負い続けます。これは、進学を考えるときの高いハードルになります。

 2014年に施行された子どもの貧困対策推進法は「子どもの将来が、その生まれ育った環境によって左右されることのないよう、教育の機会均等を図る」と強調しています。生活保護を利用しながら大学に通うことを、そろそろ正面から認めてよいのではないでしょうか。

高校を出たら働け、というのが原則

 なぜ、生活保護を利用しながら昼間の大学・専門学校で学ぶことを認めていないのか。厚生労働省保護課は「進学がぜいたくという意味ではなく、稼働能力の活用との関係だ」と説明しています。生活保護制度は、働いて稼ぐ能力があれば、それを活用することが要件です。

 したがって保護世帯の若者は、高校を卒業したら勉学より働くことを優先せよ、というのが現在の厚労省の考え方です。勤労収入を家計に入れるか、独立して暮らせば、その分、公的に支給する保護費を減らせるというわけです。逆に言うと、働きながら夜間や通信制の大学・専門学校に通うのであれば、働く能力は活用しているので、生活保護を受け続けることも可能です。

 かつては、保護世帯の子どもは原則として中卒で働くことを要求されました。一般の高校進学率が80%を超えた1970年に、世帯分離なしで高校に通うことが認められ、2005年度からは、高校生活のための就学費が「生業扶助」として支給されるようになりました。その結果、16年4月時点で、保護世帯の子どもの高校進学率は93.3%(全世帯平均は98.8%)となっています。

 しかし大学・専門学校への進学率は、保護世帯で33.1%(全世帯平均は73.2%、浪人生の翌年度進学を含めると80.6%)と、たいへん大きな開きがあります。世帯分離あるいは働きながらの就学を強いる現状が、保護世帯の子どもの進学の足かせとなっているのは明らかです。

進学のために世帯分離すれば収入が減る

 世帯分離されると、保護世帯に残る親などが受け取る生活扶助の額は、分離された学生の分だけ減ります。また住宅扶助は、限度額が世帯人数によって変わるので、減る場合があります。世帯の人数や地域によりますが、あわせて月に4万~6万円の減収になることが多いようです。

 学生のほうは生活費、学費、教科書代、通学費などがかかります。医療扶助からも外れるので、国民健康保険料を納める必要があります。それらのお金を工面しないといけません。

 働きながら夜学などに通う場合にも、勤労収入の認定で、学費・教科書代・通学費など学業に必要な費用を除外する仕組みはないので、その分を含めて、保護費が減額されてしまいます。

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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