心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
薬の服用から数年後…遅発性の副作用の苦しみ
鈍い医師、製薬会社…長期間のモニターが必要
しかし、こうした事実については、医師も製薬会社もかなり反応が鈍いと思います。
そもそも、薬物を開発する時に行う副作用調査は、使用から間もない急性の症状に限られています。市販後に行う調査も、流通してから6か月間に限って調査するという原則があります。
それゆえ、数年から10年以上もたってから出現してくる、例えばベンゾジアゼピン系薬物による眼瞼けいれんといったものは、調査の対象外です。診療する医師が「おかしい」と気づくかどうか、その視点に委ねられているのが現状です。
副作用報告を出そうにも、服薬期間が長すぎて、しばしば使用薬物が変更されたり、処方する医師が変わります。患者自身の記憶もあいまいになりやすいため、調査は困難です。しかも、同時に服用している薬も多く、因果関係がわかりにくいため、結局報告は出ない(出せない)ことになります。
さらに困るのは、症状が表れてきたころには、薬の特許が切れてジェネリック(後発医薬品)がたくさん出ている時代になっており、責任の所在があいまいになることです。
製薬会社でも監督官庁でも、そのころには、すっかり昔の薬のことは忘れてしまい、結局副作用はなかったことになってしまうーー。そんな怖さが潜在的にあるのです。
とくに、薬物の長期投与による人体への影響は、その薬の開発時には想定していません。
長期にわたり薬の副作用をモニターして、遅発性の小さな変化でも検出できるシステムを作っておく必要があるのではないでしょうか。そうしないと、誰も気付かないうちに、人類がいつまでもその薬害を受け続けるという不幸な事態になりかねません。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
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