文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

口唇口蓋裂を受け入れられなかった家族

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

ミルクを一滴も飲めないまま

 話し合いは不調に終わりました。児相の説得も失敗したのです。では、「親権の制限はできますか」と職員に尋ねると、彼らは首を横に振って「あとは先生たちで解決してください」と言って病院を去りました。

 ここから先、何ひとつ話は進展しませんでした。赤ちゃんには点滴が入れられていましたから、最低限の水分は体内に入ります。しかし、ミルクを一滴も飲んでいませんから、日ごとに赤ちゃんの体は衰えていきます。やがて、家族は面会にも姿を現さなくなりました。

 児相の人たちの判断は、あれで正しかったのか。警察に通報した方がいいのか。いや、警察は何もしてくれないだろう。21世紀の現代にこんなことがあってもいいのか……と私は 暗澹(あんたん) たる思いでした。

 もうあとは、餓死するだけです。小児外科と産科で話し合い、結局赤ちゃんは産科の新生児室で診ることになりました。したがって、私は直接赤ちゃんの最後の日々を目にしていません。のちに聞いた話では、一人の産科医が、時間さえあれば赤ちゃんのそばに寄り添っていたそうです。

 赤ちゃんが亡くなった後、病棟にはいつもと変わらない日常の風景が戻っていました。私にはそれが不満でした。これは小児外科や産科だけの問題ではない。家族が手術を拒否した時に、どう対応するかを病院全体で話し合うべき問題だと思ったのです。しかし、そういう問題意識の広がりはありませんでした。考えたくはありませんが、もしや医師の中にも、手術を拒否した家族に共感した人がいた、ということはないでしょうか?

 私は今になって思います。もっと別な方法はなかったのだろうかと。たとえば、障害とともに生きている子どもとか、先天性の病気を治して生きている子どもやその親たちを実際に見てもらえば、赤ちゃんの家族も手術を受けさせる気になったのではないか。この赤ちゃんの一件は、私の心の中にずっと暗い影を落としています。生涯忘れることはないでしょう。(松永正訓 小児外科医)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

inochihakagayaku200

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

matsunaga_face-120

松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたちの一覧を見る

365件 のコメント

コメントを書く

私は口唇裂です。

私は口唇裂として生まれてきました。 産まれた時、母親は健康に産んであげられなかったことで自分を責め、毎日泣いていたといいます。 それでも、私を一...

私は口唇裂として生まれてきました。

産まれた時、母親は健康に産んであげられなかったことで自分を責め、毎日泣いていたといいます。

それでも、私を一所懸命に育ててくれました。
片道2時間もかかる都内にある病院まで、私が小さな頃から高校生になるまで連れていってくれました。

私自身、口唇裂で虐められたというか、悪口を言われたりからかわれたりしたこともあります。でも、そんな時は兄や友達が必ず守ってくれました。

おかげで、私は自分が口唇裂だということを忘れて生きてくることができました。

口唇裂の跡は、まだ残っていますが、それが人生を左右するような事はけしてありませんでした。


今回の悲しい記事を読んで、そんなに酷い親がいることにショックを受けたのと同時に、私の
母は強い人だったのだと改めて感謝しました。


私自身、これから子供を産む時になって口唇裂の子が産まれてくるかもしれません。遺伝の可能性もあるようなので。

それでも、母のように必ず子供を守ってみせます。

どうか、こんな悲しいことが2度と起こらないように願っています。

つづきを読む

違反報告

珍しくない病気なのに

あんこ

私の妹が口唇口蓋裂でした。 母は保育士だったので知識があり、珍しくない病気だと知っていたので、 妹はすぐに手術を受け今は立派な看護師として働いて...

私の妹が口唇口蓋裂でした。
母は保育士だったので知識があり、珍しくない病気だと知っていたので、
妹はすぐに手術を受け今は立派な看護師として働いています。
妹の場合は合併症もありません。普通の人と変わらず食事もできています。
親になる人間の知識のなさが不幸な子供を増やすのだと思います。
善人ぶると書いている方がいますが、原因全てが遺伝子異常ではありませんよ。
無知を盾にしているだけではないですか?

つづきを読む

違反報告

医学の進歩とは

医学は進歩して長生きできるようになったはいいが 無駄に延命するだけがその人の幸せだろうか 特に老人、なんの生産性もない、自分で歩けない飯も食えな...

医学は進歩して長生きできるようになったはいいが
無駄に延命するだけがその人の幸せだろうか
特に老人、なんの生産性もない、自分で歩けない飯も食えない
介護で家族は金銭的にも肉体的にも精神的にも追い詰められる
本当に長生きさせることが幸せか?子供もそうだ
障害を背負って生かす事がほんとに幸せか?医者のエゴじゃないかと思う

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事