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コラム

医療のとまどいや揺れ、何度も問いながら

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『移植医たち』 谷村志穂著

「移植医たち」を書いた谷村さん

「移植医たち」を書いた谷村さん

 脳死の人からの臓器移植――。

 国内では十分に浸透しているとは言えない。抵抗感がある人もいる。

 そんな日本で20年前、移植医療の分野を切り開いた医師たちがいた。彼らのたどった道のりや現場の様子を参考に書かれたフィクション作品が「移植医たち」だ。

 1985年、移植医療の最先端を猛進するドクター・セイゲルに師事しようと日本から3人の医師が渡米する。米国の医療から受ける衝撃や、繰り返す動物実験への葛藤を乗り越え、それぞれがドクター・セイゲルを支える存在になる。97年に日本で臓器移植法が成立すると、3人は移植医療を浸透させようと帰国する。

 しかし、そこには、さらなるハードルが待ち受けていた――。

 恋愛小説を手がけることが多かった谷村志穂さんがこの分野に関心をもったのは、2011年のこと。地元・北海道のテレビ番組で移植経験者や医師と共演したことがきっかけだったという。

 「移植でしか助からない命があり、高度な技術を要する医療なのに、日本では日の目を見ない。それでも諦めずに向かっていく医師たちに魅力を感じた」と語る。

 モデルとなった医師たちを何度も取材。「脳死」の受け止め方についても聞き歩いた。手術を見学し、米国の大学や研究所も訪ねた。その結果、医療シーンだけでなく、医師やその家族らの人間模様をリアルに描き出した。

 「命と向き合う中で、医者も患者もとまどったり、揺れたりする。その部分をもっと書き込むには、『描写』するしかない」。わかったつもりだったことを質問し直し、自分で人体模型から内臓をはずしてみたりもした。

 「キーワードは『扉』」と谷村さんは言う。

 移植手術後は拒絶反応の管理が必要になる。手術の成功は扉の一つに過ぎない。医師たちの帰国によって開かれた移植医療の扉。そしてこれからの日本にも、いくつもの扉がある。

 取材をする中で、臓器提供の意思表示カードを持つようになったという。家族とも何度か話し合った。

 「今までは臓器移植という医療から目を背けていた気がする。本を書きながら、移植医療をちゃんと知らずに意見するのは嫌だなと思った。知った上で考えを持つことが大事ですね」 (鈴木希 医療部)

 (新潮社 1900円税別)

【略歴】

鈴木 希(すずき・のぞみ)

2017年2月から医療部。臓器移植や感染症、小児医療、乳がんについて取材。趣味はカラオケ。

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