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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓

医療・健康・介護のコラム

髄膜炎の赤ちゃんに後遺症 家族の選択

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 我が子の障害を受け入れる()ということは簡単なことではありません。重い障害という現実を突きつけられた時に、親が示す態度は様々です。気力を失う人、悲しみにくれる人、どこかに希望を見つけようとする人……。中には、強い拒絶の意思を表す人もいます。家族と医師が長い時間をかけて話し合い、受容へのステップを踏んでいく必要があります。

術後5日で急変 脳に後遺症

 私が勤める病院の産科で腹壁破裂の赤ちゃんが生まれました。赤ちゃんはすぐに産科から小児外科に移され、手術が行われました。赤ちゃんは新生児室で術後管理を受けていました。ここまではまったく普通の経過です。赤ちゃんの気管内にはチューブが差し込まれ人工呼吸器が作動していましたが、術後1週間もすればチューブは外される見込みでした。

【名畑文巨のまなざし】 ミャンマーの2歳の女の子。ダウン症です。やんちゃで元気、パワフルなエネルギーにあふれています。大好きなお兄ちゃんやお母さんと一緒に、公園で無邪気に遊んでいるのを見ていると、こちらまで幸せな気持ちになりました。

【名畑文巨のまなざし】
 ミャンマーの2歳の女の子。ダウン症です。やんちゃで元気、パワフルなエネルギーにあふれています。大好きなお兄ちゃんやお母さんと一緒に、公園で無邪気に遊んでいるのを見ていると、こちらまで幸せな気持ちになりました。

 ところが、術後5日になって、赤ちゃんの心拍数、血圧、酸素飽和度に異常が表れました。血液検査の結果を見ると、炎症反応を示す数値が跳ね上がっています。

 生まれて5日の新生児には免疫力が全然ありませんから、感染症を起こすと大変なことになります。私たちは、血液、尿、皮膚(の表面)、気管分泌物( (たん) )などを検体として検査部に提出し、細菌培養を行いました。同時に、これまで使っていた抗生物質を、最も強いものに変更しました。

 しかし、検査ではどこからも菌が検出されません。ただ、1か所だけ細菌検査をしていない場所がありました。それは髄液です。髄液とは脳や脊髄の表面を循環している液体のことです。私たちは小児科の先生たちと一緒に、赤ちゃんの背中に針を刺して髄液を抜き取りました。検査の結果、細菌性髄膜炎だとわかりました。

 赤ちゃんは生死の境をさまよいましたが、薬の効果が出始めると、容体はしだいに安定していきました。血液の炎症反応も正常域にまで低下しました。問題は脳の状態です。重篤な細菌性髄膜炎でしたから後遺症が心配です。気管内チューブを挿入したまま、赤ちゃんをX線CT撮影室まで運び、画像で脳を見ました。

 結果は最悪でした。出血と梗塞が脳のいくつもの部位で起きており、脳のダメージは広範囲に及んでいました。小児科の神経班の先生はX線画像をじっと見つめた後で、「この脳の障害は元に戻らない。脳死に近いようなダメージがあり、植物状態と言っていい」と述べました。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは 歴史は必ず進歩する!

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは 写真家名畑文巨の子ども写真の世界

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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21件 のコメント

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正解はない

きょっぴ

どうするのがいいか、正解はないと思います。胎児医療、新生児医療、医学は日々進歩します。認知症で、家族すら分からない、食べることすら分からない、9...

どうするのがいいか、正解はないと思います。胎児医療、新生児医療、医学は日々進歩します。認知症で、家族すら分からない、食べることすら分からない、90歳を越え、ペグを作って経管栄養。そんな方もたくさんいらっしゃいます。
何が正解で何が間違っているのか。それは家族が考え、決めることです。
皆保険制度、現在の医療制度がある限り、その選択は家族のものです。
赤ちゃんの命について語ることは難しいですぐ、自分の最後をどうするか、はっきりと意思表示するべきだと思います。

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親だから、〇〇べきはない。

HS

親だから、〇〇べき。子供は、親の保護下に〇〇べき。 正解は、なくて。その代わり、人間は、何処かでそんな自分を悲しんだり、悔やんだり?諦めて見たも...

親だから、〇〇べき。子供は、親の保護下に〇〇べき。
正解は、なくて。その代わり、人間は、何処かでそんな自分を悲しんだり、悔やんだり?諦めて見たものの、後悔したり。それが、人間臭さじゃ無いですか?

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なんだかね。

hf

当院にも生まれてすぐに難病が見つかり、親は退院拒否、そのまま入院継続およそ30年……という方がおられますが。 更に困ったことに、医療費の支払いも...

当院にも生まれてすぐに難病が見つかり、親は退院拒否、そのまま入院継続およそ30年……という方がおられますが。
更に困ったことに、医療費の支払いも拒否されちゃってるんですよね。すぐに亡くなる疾患だから、払わなくてもいいと言われたとか何とか言い張られて。
そんなバカな、と思いますが、記録も残っていませんし、事実確認もできません。
入院費は税金で賄われているらしいですが、どこか預かり施設に動かそうとしても、「家から遠いから無理」とかおっしゃられ(というかキレられ)てね。
本当に重症な子でも「自宅で看取りたい」と連れて帰る親御さんもいるし、正直、親のキャラとしか言いようがありません。

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