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飛行機内に急病人、対応スムーズに…「善意の治療」医師1600人登録

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飛行機内に急病人、対応スムーズに…「善意の治療」医師1600人登録

 航空機内で急病人が出た場合に備え、航空会社が医師の事前登録制度を進めている。乗り合わせた医師を機内放送で探す「ドクターコール」の前に、乗客名簿から医師の搭乗を把握できるようにするためだ。国内の大手2社が昨年に相次ぎ導入し、これまでに延べ約1600人が登録。より素早く急患に対応できる効果が期待されるが、訴訟リスクに不安を感じる医師も少なくなく、さらに登録者を増やすには周知の徹底などが課題となりそうだ。

年間急病人…JAL160件、ANA240件

 福島県の病院の外科医長、中山祐次郎さん(37)が全日空(ANA)の同制度に登録したのは、5年前の経験があったからだ。

 学会参加のため欧州便に乗っていた際、ドクターコールがあり、使命感から手を挙げた。

 乗客はぐったりしており、最高血圧は60。機内に常備されている医療器具などで診察後、神経系の発作と判断し、点滴すると回復した。

 しかし、中山さんは「ドクターコールで衆人環視の状態となり、プレッシャーがかかりやすいと感じた」と振り返り、事前に登録し、乗務員に直接声をかけてもらう方が「落ち着いて診察できる」と話す。

 大手2社の年間運航数(国際・国内線)は日本航空(JAL)が約27万便、ANAが約36万便。診察が必要とみられる急病人はJALが約160件、ANAが約240件と、発生率こそ高くないものの、中には近くの空港への緊急着陸が必要になるケースもあるという。

ドクターコールでは…「集中できず」「乗客が不安」

 ドクターコールでは、すぐに手が挙がらず、繰り返し呼びかけることがある。「医師が注目されて治療に集中できない」「乗客に不安が広がる」との意見もあり、JALは昨年2月、ANAも同9月に事前登録制度を導入した。海外では、2006年から始めた独ルフトハンザ航空で1万人以上の医師が登録しており、オーストリア航空やターキッシュ・エアラインズなども採用している。

 制度では、急病人が出ればドクターコールの前に乗客名簿から医師を探し、乗り合わせていれば個別に声を掛ける。これまでにJAL、ANAとも医師の搭乗を把握できたケースが約10件あり、治療を受けた乗客の評判も良いという。

 両社はそれぞれのホームページなどで募集。JALの登録者は空港ラウンジを無料利用でき、ANAも、内容は非公表だが特典を用意している。日本医師会も会報などで知らせており、これまでに国内に約31万人いる医師のうち、JAL約600人、ANA約1000人が登録した。

「もし急死したら…」訴訟リスク懸念も

 ただ、登録を不安視する医師も少なからずいる。

 ドクターコールに応じた経験がある兵庫県の男性内科医(35)は「今後も登録する気はない」と話す。

 家族で沖縄に向かう機内にいた2年前、ドクターコールを聞き、急病人の座席に向かうと、中年男性が「頭が痛い」と訴え、脳梗塞も疑われる症状だった。脳外科は専門外で、脈拍などを確認し、男性に「安静にして」と伝えたが、「もし、急死して遺族に訴えられたらどうしよう、と気が気でなかった」と言う。

 民法には、義務なく他人のために対処した場合、悪意または重大な過失がなければ賠償責任を負わないとの規定がある。ただ、兵庫医科大などが数年前、機内や鉄道などで急患に遭遇した経験がある医師508人を対象に実施した意識調査では、1割の53人が「対応しなかった」と回答。最も多かった理由は「法的責任を問われるかもしれないと思った」(23人)だった。

 訴訟に備え、JALは「保険を適用する」、ANAは「弊社が主体となって対応する」としているが、神戸大の手嶋豊教授(民法・医事法)は「善意による人命救助行為は民事上の法的責任を問われない米国に対し、日本ではどういった場合に保護されるのかが不明瞭なのが現状。法整備を検討すべきだ」と指摘する。

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