文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

薬の副作用…不十分な報告制度

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

症例がたくさんあっても…

 数年たって、薬物性眼瞼痙攣に関する新聞記事が出たことを受けて、あるベンゾジアゼピン系薬物の製造販売会社から、1件だけ問い合わせがありました。担当の女性には、論文など公表できる資料を渡し、「ぜひ薬の添付文書に記載して、注意を喚起してほしい」と話しました。彼女は明確に肯定したわけではありませんが、話の内容をよく理解して帰ったと思います。

 しばらくして、この会社から「副作用報告を出してください」という連絡がありました。医師たちが、決められた書式で一例一例の症例を記して提出する「副作用報告」が審査され、その症例が「副作用」と認められてはじめて、薬の添付文書が改訂される、という流れになるのが普通のようです。

 冒頭に述べた論文が既に発表されており、いくつかの追試研究や、別の角度からの研究報告も出ています。私どもの施設では、その後、全ての患者に服薬歴を聞くことにしましたから、「確実」なケースと「疑いのある」ケースを含めれば、のべ1000例以上の薬物性の眼瞼痙攣を診てきました。

 症例がそれだけ多数に上るので、その一つ一つについて、つぶさに記載する形で副作用の報告書を書くことは、物理的に不可能です。しかも、全体の数の多さだけでなく、ほとんどの患者は数年から10年以上にわたって薬物を連用していますし、処方する医師が何回も変わっていることも多いのです。

 それぞれの服薬歴を最初まで遡って調べ上げるためには、診療などの日常業務をすべて止めないとできず、膨大な労力がかかります。つまり、副作用の事例を1例ずつ集めることを想定した「副作用報告」の制度ではカバーしきれない規模の話なのです。

 「副作用報告」という現行制度の在り方、また、薬の添付文書の「副作用」の項の改訂に関しての道筋に、大きな落とし穴があるとは言えないでしょうか。

 このことは、次回にもう少し検討してみたいと思います。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「健康は眼に聞け」「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

心療眼科医・若倉雅登のひとりごとの一覧を見る

最新記事