心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
薬の副作用…不十分な報告制度

睡眠導入薬や抗不安薬として用いられるベンゾジアゼピン系の薬物や、その類似薬のエチゾラムなどを使い続ける(連用する)と、目を開けた時にとても 眩 しく感じたり、目の痛みがひどくなったりして、目を開けることが自在にできなくなる「 眼瞼痙攣 」という疾患が生じることがあります。その多数の症例の報告を、私が英国の神経科学誌に最初に発表したのは2004年のことでした。
その論文のタイトルは、和訳すると「エチゾラムとベンゾジアゼピン系薬物が眼瞼痙攣を起こす」です。「エチゾラム」という種類の薬物を指す用語と、化学構造が似た多種類の薬物の総称である「ベンゾジアゼピン系」という用語が、タイトルの中に記載されています。
この論文で特定された「エチゾラム」の販売元の製薬会社では、論文を見て、担当者が間もなく私に面会に来ました。
「先生の発表論文に従って、薬の添付文書にそのことを記載するので、詳細を教えてほしい」というのです。
副作用と言うと、製薬会社はどうしても忌み嫌う傾向が強いという先入観を私は持っていたので、「この会社はまじめで、患者のことをよく考えているな」と、好印象を持ちました。その後、「眼瞼痙攣」のことが、薬物の添付文書に記載されたのです。
この論文ではベンゾジアゼピン系薬物のことも書いています。その後、私たちのグループだけでなく、ほかの研究者からも、追加の研究成果が発表されました。私たちは、論文の内容を広く伝えるため、学会発表や講演を繰り返しました。
しかし、ベンゾジアゼピン系薬物を製品のラインアップとして持っている製薬会社は非常に多いのにもかかわらず、どこからも問い合わせはありませんでした。それどころか、薬物性の疾患を疑った医師が、製薬会社に問い合わせても「そのような副作用の事例はない」という回答が返ってくるというありさまでした。
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