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時を重ねる

医療・健康・介護のコラム

亭主と手つなぎ つえ代わり 漫才師 内海桂子さん

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  <昭和を代表する女性漫才師として活躍し、93歳になった今も1人、舞台に立つ。現役最高齢芸人とも言われ、東京・浅草の演芸場「東洋館」では毎月7、8回は出演している。>

亭主と手つなぎ つえ代わり 漫才師 内海桂子さん

出会った頃、内海さんはアメリカ在住だった成田さんから1年で約300通の手紙をもらった。「1人でも生きていけるけど、2人もいいもんね」

 舞台では三味線弾いたり、自分で作った都々逸を歌ったり。何より、お客さんとの掛け合いが楽しいわね。

 踊りでは着物の裾をまくって、太ももをチラッと見せると大盛り上がり。90超えたばばあがするから面白いの。若い人がやっても、こうはなんないよ。

 いつも披露する唄(さのさ節)があってね。

 ♪93ですよ 酒は1合 ご飯は2膳 夜中に5回もお手洗い 100まで7年 ネェわけはない みなさま どうぞよろしく願います

 90歳になって、自分の年齢を意識するようになったかな。握手を求められることも多くなったし、タクシーの運転手さんも乗ると喜んでくれる。「若さをもらったよ」って。もらっちゃダメなんだけど。

  <浅草近くの自宅で、夫でマネジャーの成田常也さん(69)と2人暮らし。24歳年下の成田さんからの猛アタックで結婚、知り合って今年で約30年という。元気の源は何なのか。>

 80歳過ぎまで健康保険証を使ったこともないし、血液型も知らなかったのに、病気やけがが続いてね。83歳で東京駅の階段を34段転げ落ちて手首を骨折、85歳で乳がんがわかって手術、88歳で肺炎……。

 でも、弱気にはならなかった。乳がんの時は先生から「がんです」と言われて、「いらないものなら、とって下さい」でおしまい。薬が嫌いだから、手術後の痛み止めも飲まなかった。早く元通りの自分になって、1日でも早く仕事をしたい。その気持ちが何よりも強い。

 肺炎の時も入院した病院から鼻に酸素吸入のチューブを入れて演芸場に向かって、本番前に外して舞台に上がったの。看板出したら、休まないのが芸人だから。

 9歳でそば屋に奉公に出て、戻ってから母親に「生きていくためには、何か習っとけ」と言われて、三味線と踊りを始めた。16歳で漫才の初舞台。終戦後は吉原で団子を売ったり、キャバレーでホステスをしたり。当時の亭主の分も働いて子ども2人を育てて、ずっと私が家族の生活を支えてきた。働き通しよ。

 でも、苦労したおかげで、今があると思っている。全ての経験が芸に生きてんの。

 日課は朝のウォーキング。家の前で、寝ている間にかたまった腰をほぐしながら道路の白線に沿って歩くの。布団の上げ下ろしも自分で。軽いスクワットみたいなもんよ。親切に甘えると、流されちゃうからね。自分で自分を律しないと。

 つえは使わない。嫌いなんですよ、年寄り扱いされるのが。お客さんからお金をいただいて舞台に立っているのに、そんな姿は見せられない。亭主と手つないで歩いてんだけど、仲いいんじゃないよ、つえ代わり。

引退なんかしない。100歳まで7年 何できっかね

  <2010年からはツイッターを始め、フォロワーの数は14万人。切れ味鋭く、洒落しゃれっ気のある言葉が支持される。漫才コンビ「ナイツ」の師匠としても知られ、最近は若者からも人気だ。>

 ツイッターっていっても、私はつぶやくだけ、亭主がパソコンに打ち込んでるの。1日1回更新してるらしいんだけど、ネタがないと夜に「何かつぶやいて下さい」って言われてね。こっちも真剣よ。

 こんなばあさんのつぶやきを面白がっていただいて、ありがたい。年寄りでも新しいことに、挑戦できるのよね。

 仕事辞めたら、と言われることあるけど、引退なんかしないわよ。仕事しなけりゃ、生きている意味がない。私の代わりはいないんだから。100歳まで7年、何できっかね。

 最後にもう一つ、自作の都々逸を。

 生命いのちとは 粋なものだよ 色恋忘れ 意地張りなくなりゃ 石になる (聞き手・古岡三枝子)

成田さんから見た「師匠」

 「多少動きが緩慢だから、例えばボタンがなかなかしまらない。『時間がかかりすぎてますよ』と言うと、『何言ってんの。私、93なんだから』。逆襲してくるようになりましたね。威張ってるんです。舞台の迫力、パワーはすごいです。そう老けたとは言わせません」

2016年3月6日掲載(略歴は当時のもの)

  うつみ・けいこ  1922年生まれ、東京・浅草育ち。50年に14歳年下の内海好江さんと「桂子・好江」を結成し、三味線、歌、踊りを盛り込んだ江戸っ子らしいきっぷのいいしゃべりで人気を集めた。ほぼ半世紀コンビを組んだ好江さんが97年に亡くなってからは、1人で活動している。漫才協会名誉会長。

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時を重ねる
年齢を重ねたからこそ得られる楽しみや境地がある。高齢期を迎えた各界の著名人に思う存分語ってもらいます。

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