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時を重ねる

医療・健康・介護のコラム

カンボジアに「桜中学校」 脚本家 小山内美江子さん

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 <TBSの人気ドラマ「3年B組金八先生」の脚本を25年間にわたり書き続けた。その一方で、カンボジアでの学校建設や教育支援などを行う認定NPO法人「JHP・学校をつくる会」(東京)の代表理事として活動を続ける。>

カンボジアに「桜中学校」脚本家 小山内美江子さん

「今年、自宅を引っ越しした。周囲から止められていたのに、段ボール箱を運ぼうとしてぎっくり背中になっちゃった。じっとしていられない性分なのよね」(東京都港区で)=安斎晃撮影

 週に2回は会の事務所に顔を出し、次に建設する学校についてスタッフと話し合い、協力してくださった方に活動報告の手紙を書きます。あとは、会の仲間であるジャーナリストの池上彰さんの中東問題の本などを読んでいます。

 カンボジアにはほぼ毎年訪れています。でも、今年3月に現地で風邪をひき、「病院は嫌い」とわがままを言っていたら、肺炎になって病院の集中治療室に運ばれてしまった。活動初期に知り合った副首相らが見舞いに来てくれて、あのおばさんは何者だ、と病院は大騒ぎだったみたい。周囲から、もう若くはないのだからと注意されて、今度ばかりは反省しました。

 会を作ったのは、還暦を迎えた1990年に湾岸危機が起き、「日本はカネは出すが汗をかかない」と批判されたことがきっかけ。91歳の母をみとり、NHKの大河ドラマ「 ぶが ごと く」も書き上がりと、公私ともに一区切りがつき、戦争は絶対に反対の戦争経験者として何かをしなければと考えたんです。

 内戦後まもないカンボジアを訪れ、芸術や宗教、教育が弾圧されて学校がない、あっても機能していないことに衝撃を受けた。これからの子どもたちのために、学校を作りたいと心底思いました。

 仲間たちと350棟の校舎を建て、音楽や美術教師の養成、教材支援もしています。金八先生の舞台と同じ名前の「桜中学校」も向こうに作ったんですよ。

平和のため何かできないか考えた

 <映画の制作現場でスクリプター(記録係)として働き、32歳で脚本家に転身。その間、結婚、出産、離婚を経験した。>

 映画監督になりたくて映画学校に通ったものの、当時、まだまだ女性は助監督にもなれなかった。生後4か月の息子を育てながら家でできる仕事、と選んだのが脚本家の道です。特別な勉強はせずとも、脚本が作品になる過程で働いてきたことを頼りに、来る仕事はすべて引き受けました。

 金八先生の頃は、他局の大人気ドラマ「太陽にほえろ!」と同じ時間帯で、TBSからは「視聴率にこだわらず、いいものを作ってほしい」と依頼された。息子が高校に入ったばかりで、受験の重圧は我が家に来る息子の友人の悩みをよく聞いていたこともあって身に染みていました。死を選んだ中学生の痛ましい新聞記事も目にし、その味方になるものなら書けると思った。息子の友人が話していた学校や先生、親への文句など、材料はいくらでもありました。

 息子の友人とは今も交流があります。会への寄付を長年続けてくれる人や、企業の管理職になり、「会社の仕事を通して、何かお役に立ちたい」と言ってくれる人もいます。

 金八先生で描いた時代と今で決定的に違うのは、スマートフォンの存在。学校でのいじめもより陰湿になっている気がする。インターネットの世界では、どこまでしていいか、どこからは絶対だめなのかの線引きがないまま進むので、おそろしさを感じます。だから、しっかりと話を聞く大人が必要だし、評価してあげることも大事なんです。

 <世代をつなぐことへの思いは強い。会の活動でも学校建設とともに柱に据えるのがカンボジアへの大学生らボランティアの派遣だ。>

 延べ1000人以上が活動の視察や校庭でのブランコ作りを経験。学生時代に参加した男性が「我が子にも体験させたい」と言って、今年娘さんが参加してくれました。まじめに活動してきてよかった。

 世界に出て働く子も多い。私は気持ちの上では相変わらず好奇心旺盛で、いろいろなことを見たり聞いたりしたいけれど、87歳でさすがに飛び回れない。代わりに子どもたちが教えてくれます。

 会を続けることは責務です。小山内からじかに活動報告の手紙が来たことを喜んでもらえるよう、脚本家としての「賞味期限」を延ばしたい。オファーはいくつかいただいており、あと1本、若い人がはじけるようなドラマを書きたいな。(聞き手・辻本洋子)

 おさない・みえこ  1930年、神奈川県生まれ。51年から映画制作に参加し、62年から脚本家として、NHK「マー姉ちゃん」「徳川家康」などを手がける。93年に「JHP・学校をつくる会」を設立。95年度橋田賞を受賞。著書に「我が人生、筋書き無し」など。長男は俳優で映画監督の利重剛さん。

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時を重ねる
年齢を重ねたからこそ得られる楽しみや境地がある。高齢期を迎えた各界の著名人に思う存分語ってもらいます。

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