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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

自己肯定感が問題のカギ(下)

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自己肯定感が問題のカギ(下)

 人間が生きていくときの様々な困難に深く関係している自己肯定感。日常の言葉で「自信」と言い換えてもよいのですが、その中身はけっして単純ではありません。自己肯定感には2種類あり、他者との比較に基づく自己肯定感は不安定で、他者に対する攻撃に走ることもあります。

不安定な「競争的自己肯定感」

 臨床心理士の高垣忠一郎さん(立命館大学名誉教授)は、「競争的自己肯定感」と「共感的自己肯定感」という2種類の区別を、『生きることと自己肯定感』(新日本出版社)という著書で示しています。

 「競争的自己肯定感」とはどういうものか。「自分が役に立つ能力、特性を持つから必要とされ肯定されるという条件付きの愛情による自己肯定感」「競争に勝ち、他人より優れていることで満たされる競争的自己肯定感」「他者と比較し、自分の優越性を見せつけようとする自己肯定感」――だと高垣さんは説明しています。

 そういう自己肯定感は不安定です。競争に負け、他者より劣っていると感じたら、容易にひっくり返って自己否定感や劣等感に変わります。頭脳、外見、地位、財力、さらには芸術やスポーツの能力といった物差しの全部で抜群という人は存在しないので、全員がどこかで負けています。何らかの分野でトップに立っても転落の不安がつきまとうし、老いによる衰えは避けられません。

ありのままの自分でいいという「共感的自己肯定感」

 もう一つの「共感的自己肯定感」とは何でしょうか。「自分が自分であって大丈夫と感じるもの」「かけがえのない自分をありのまま受け れ、それゆえにかけがえのない他人に共感できる自己肯定感」「身近な人間にかけがえのない存在としてまるごと愛され、その苦しみを共感され、ありのまま受け容れられるような共感的な人間関係のなかでこそふくらんでくるもの」だといいます。他者を尊重するという点で、競争的自己肯定感と異なります。

 自分の弱さや欠点を含めて、あるがままでいいという感覚。これでいいのだという感覚。そう、この自己肯定感が高い人物の代表格は「バカボンのパパ」でしょう。彼は、常識外れの行動で人からどう思われても「これでいいのだ」と全く気にせず、人を憎んで否定することもありません。

 ここまで何を言っているのかわかりにくい方は、「世界に一つだけの花」の歌を口ずさんでみてください。2種類の自己肯定感の違いをわかりやすく表現していると思います。あるがままだと向上心がなくなるかというとそうではなく、自分を高めたいという気持ち、何かをやりたいという意欲は、他者と比べなくても持てるはずです。

学校教育、競争社会がもたらす「とらわれ」

 能力や成果を物差しにして、他者と比べることでしか自己肯定感を持てないと、成功しているとき以外は苦しくなります。ではなぜ、それにとらわれるのか。一つの要因は家庭での育てられ方でしょう。無条件で愛される体験がないと、自分には価値がないと感じたり、親の期待に応えて「よい子」を演じたり、かまってもらうためにワルぶってみたり……。

 学校と社会のありようも大きな影響を与えます。学校教育と受験では、教師による評価、他者との比較にさらされ続けます。社会人になっても選別、比較は続きます。非正規労働の拡大などで格差が大きくなった世の中では、生き残り競争のストレスと不安が強まります。

 一方、権利意識を高める教育や法学の教育はあまり行われていません。しかも自己主張が疎んじられる社会なので、正当な権利を主張できず、不当な扱いを受けても、しかたがないと思ってしまう。主張できない自分の弱さに、またへこむ。そういう状況のほうが管理・統治する側には都合がよいのかもしれません。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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