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がん治療と妊娠(2)精子保存 授かった宝

 晴れた日曜日。京都府木津川市の 南出みなみでゆづる さん(40)は、自宅の庭で長男の いたる ちゃん(6)、次男の まもる ちゃん(3)とじゃれあって遊んでいた。休みの日はキャッチボールをしたり、プロレスごっこをしたり。平凡だけど、かけがえのない日々にいつも思うことがある。「あの時、子どもを持てる可能性を残しておいて本当によかった」と。

 南出さんは大学生だった1999年5月、「慢性骨髄性白血病」と診断された。がん化した白血球が、骨髄や血液中で異常に増える病気だ。献血したところ、白血球などの数値に異常が見つかっていた。

 治療には、骨髄移植という方法がある。ドナー(提供者)から血液を作るもととなる造血幹細胞を含んだ骨髄液を注入するものだ。

 移植をするためには、白血球の型(HLA)が適合する必要がある。兄弟は4分の1の確率で一致するが、兄とはHLAが一致していなかった。骨髄バンクに登録したが、ドナーが見つかるかどうかはわからない。

 「死ぬのかもしれない」。入院した大学病院の病室で、そんな恐怖に襲われる日々を送っていた。

 「精子は保存しておいた方がええよ」。ある日、同じ病室に入院していた50歳代の男性が教えてくれた。

 骨髄移植では、前処置として大量の抗がん剤を投与し、全身に放射線を浴びる。体内にあるがん細胞を壊滅させるためだ。しかし、その際、生殖能力がダメージを受け、子どもを作れなくなる可能性がある。

 南出さんは当初、保存に消極的だった。生きるか死ぬかの瀬戸際で、先のことまで考える余裕がなかったからだ。22歳と若く、自分が将来、家族を持つイメージもなかった。ただ、両親の勧めもあり、精子を保存することにした。

 ドナーが見つかったと骨髄バンクから連絡があったのはその年の12月。「生きられるかもしれない」。 安堵あんど 感がこみ上げた。

 2000年5月に骨髄移植を受けることができ、その夏に退院した。翌年4月には大学に復学。その後、「患者さんの助けになろう」と、医療ソーシャルワーカーになった。

 09年に妻・理恵さん(41)と結婚。保存していた精子を使って体外受精し、子宝に恵まれた。「子どもの成長を見守れることが幸せ」と理恵さん。南出さんは言う。「ドナーに命をつないでもらい、精子を保存していたおかげで新たな命を授かることができた。そのことに感謝しながら生きていきたい」

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