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時を重ねる

医療・健康・介護のコラム

知恵袋開け 後輩に伝えたい 女優 草笛光子さん

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 <美しい白髪に、背筋の伸びた立ち姿。最近、「健康や美容で気をつけていることは?」と聞かれることが多いという。>

テレビのスポーツ番組を見るのが好きという草笛さん。「自分の体を限界まで使うアスリートの精神力に尊敬を覚えます」(東京都内で)=三輪洋子撮影

テレビのスポーツ番組を見るのが好きという草笛さん。「自分の体を限界まで使うアスリートの精神力に尊敬を覚えます」(東京都内で)=三輪洋子撮影

 週1回、トレーナーを家に呼んで1時間半トレーニングをしています。8キロの重りを腰に巻いてスクワットしたり、ボールを使って鍛えたり。「こんちくしょう。私が倒れたらどうすんの!」「これくらいで倒れませんよ」。そんな憎まれ口をたたき合って、苦しさを紛らわせます。他の日も10~20分のストレッチをします。

 きっかけは2006年に初演した2人芝居「6週間のダンスレッスン」です。タンゴやワルツなど6種類のダンスを披露し、衣装替えの間も舞台裏からマイクでせりふを語るハードな舞台。東京公演の終了直後に高熱が出て、2日後に始まる大阪公演までに治せるかと焦りました。

 「むちゃしたら駄目」と思うけれど、楽をしたら良い舞台はできない。女優を続けるには体を鍛えるしかないと思った。おかげさまでこの舞台は昨年、通算195公演を記録しました。

楽したら良い舞台できない 体鍛えるしかない

 <年を追うごとに増す存在感の裏には、ベストの演技を追い求める気持ちがある。>

 うば捨て山で年老いた女性たちが生き抜く姿を描いた映画「デンデラ」(2011年)で、100歳のリーダー役を演じました。「死んでたまるか」と吐き捨てる一方で、食べ終わった魚の骨で髪をとく女心も残す、複雑な役どころです。

 私自身、年齢と経験を重ね、中身はそれなりに充実してきたはず。デンデラのプロデューサーから「底力を見せて下さい」と出演を頼まれた時はうれしかった。今でなきゃ出せないものを出そうと思ったら、美しく見せたいといった感覚は薄れていきました。

 日本の芸能界は若い人を中心に回っていて、私たちの世代に与えられるチャンスは少ない。海外の女優をうらやましく思うことも多いです。例えば、私より1歳下のジュディ・デンチ。エリザベス1世を演じ、アカデミー賞助演女優賞に輝いた映画「恋におちたシェイクスピア」(1998年)では、女王に似つかわしくない卑わいな笑い方をしてみせた。役の本質をこんなに深く演じられるのかと心が震えました。

 「私も、人の心をわしづかみにする作品を残すまでは死ねない」と思う。だから、友人の兼高かおるさん(旅行ジャーナリスト)から「私もあなたも独り身だから、遺言を書くべきよ」と勧められても、書く気になれない。執念が元気につながっているのかもしれません。

 <人生で蓄えた様々な財産が今の生活の支えになっていると実感するという。>

 50歳の頃、自宅を建て直し、地下にけいこ場を設けました。借金をしましたが、「これからの挑戦のため」と捉えました。年を取り、行動範囲は狭まってきたので、自宅で演技のけいこやトレーニングに励める環境を作っておいて良かったとしみじみ思います。

 毎年通っていた米・ブロードウェーも「テロが心配だから」と行かなくなり、友人とも会うより電話で話す方が多くなった。それでも、兼高さんら、グローバルな視野を持つ友人との会話には刺激を受けます。

<撮影現場では、若手から教えを請われることも多い。>

 山田五十鈴さんや越路吹雪さん、森繁久弥さんら素晴らしい共演者に教えていただいた知識が、頭に入っています。30年ほど前にドラマで芸者役を演じた時は、お母様が芸者だったプロデューサーの石井ふく子さんから「芸者の所作を教えておくから、若い子に伝えてね」と言われました。

 だから、「話を聞きたい」とそばに来られる俳優さんには、知恵袋を開けてできるだけ伝えます。若い人の悩みを取り除き、前へ進むのに役立てばと思っています。(聞き手・中舘聡子)

2015年4月5日掲載(略歴は当時のもの)

 くさぶえ・みつこ 1933年、横浜市生まれ。50年、松竹歌劇団に入団し、53年には映画「純潔革命」で主演。テレビ番組「光子の窓」(58~60年)では司会も務めた。主な出演作に、映画「犬神家の一族」、舞台「私はシャーリー・ヴァレンタイン」など。99年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章した。

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時を重ねる
年齢を重ねたからこそ得られる楽しみや境地がある。高齢期を迎えた各界の著名人に思う存分語ってもらいます。

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