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体外受精のニュースから透けて見えた日本の子育て事情

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妊娠・出産をめぐる環境を考えてみると

体外受精のニュースから透けて見えた日本の子育て事情

ある雑誌の料理ページの撮影風景です。これから寒くなる季節に向けて、体が温まる薬膳レシピを考案しました

 先日、中医学の婦人科の講義を受けている時に、あるニュースがクラスで話題になりました。2015年に国内で行われた体外受精によって、過去最多の5万1001人が誕生したという話です。赤ちゃん全体の19人に1人が体外受精で生まれたことになるそうです。1983年に初めて日本で体外受精の赤ちゃんが誕生した時には、安全性や生命倫理、宗教など様々な観点からの議論が沸騰し、治療を受けた方のプライバシーも含めて大変な騒ぎになったことを思い出しました。

 あれから累計で48万2627人の赤ちゃんが誕生したとのこと。その上、体外受精で生まれた方たちの多くがすでに成人し、自身も親となっていると聞くと、この世に生まれた命の尊さをしみじみ感じます。さまざまな分野の方が長い時間をかけた、その努力があってこその治療法の定着だと思います。

 クラスで注目を集めたのは、英仏では多くの方が30歳代で体外受精を試みるのに対し、日本では40歳代が多く、そのせいか成功率が低めだという点でした。実際、早めに「妊活」を始めるように啓もうしていこうと伝えているメディアもありました。

 確かに成功率やその後の安全な妊娠の継続、出産後の子育てを考えても、妊娠によりよい年齢というものはあると思います。講師の先生は都内の漢方薬局で不妊の相談も受けているそうですが、そこでもやはり40歳代になってから相談に来る人が多いとのこと。中医学の考えが一般的な中国では、妊娠を望む若い夫婦は早いうちから生活の改善や漢方薬の利用などに取り組み、それがうまくいかなければ、これも早いうちに体外受精など西洋医学の治療も併用するそうです。英仏の女性たちが早めに不妊治療に取り組めるのは、妊娠から子育てまでの援助が日本より手厚いことによるのかもしれません。

「産み時」をみつけにくい日本の女性たち

 私は、日本の女性たちの「妊活」が遅れがちな理由を、やみくもに知識の不足や意識の低さに求めるような、一部の言説に違和感を覚えます。妊娠・出産を取り巻く社会環境に多分に問題があるように思えるからです。安定した雇用環境に恵まれない中、なかなか妊娠に踏み切れないケースは多いようです。また、本来、授かりものとして祝福されるべき妊娠・出産が、往々にして女性たちを責め、追い詰めるものとして語られているのも気になります。生徒や学生が妊娠すれば、ふしだらと言われて退学を求められ、結果的に教育を受ける機会を失います。社会に出て間もないうちに妊娠すれば「自覚がない」と責められ、職を失うことさえあります。それなのに、ある程度キャリアを積んでから妊娠すると「卵子の老化」などという言葉を聞かされます。一体、いつ産んだらよいのだろうと悩む女性が多いのもうなずけます。

 中医学では体力・体質・体調などとともに、「心」を大切にしています。心が乱れれば、やがて五臓の乱れにつながり、体のバランスを崩すことにつながると考えるからです。私たちは様々な感情を織り交ぜながら生きています。喜ぶ時には喜び、怒る時には怒り、悲しい時には悲しむのが自然です。こうした感情の発露がのびのびと行われているのならよいのですが、仕事などで強いストレスを継続的に受け続け、一方で「早く妊娠しなくては適齢期が過ぎてしまうぞ」と追い立てられるようでは、心は乱れっぱなしです。安心して安全な妊娠や出産をめざす時に心身の疲れは禁物です。

 一人ひとりが伸びやかに毎日を過ごし、その人なりの自然な流れの中で子宝に恵まれる――。そのための環境整備はますます充実させるべきだと思います。その人らしい人生を送れるように、西洋医学であれ中医学であれ、力となってほしいと感じたのでした。 (麻木久仁子 タレント)

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asagi

麻木久仁子(あさぎ・くにこ)
 1962年、東京都生まれ。学習院大学法学部中退。テレビ、ラジオ番組で司会者、コメンテーターとして活躍するほか、読書家としても知られ、本の紹介サイトHONZや新聞で書評を書いている。2010年に脳梗塞を発症。12年には両胸に発症した初期の乳がんの手術を受け、現在もホルモン療法中。講演会や取材などで闘病体験や検診の大切さを伝えている。2016年には国際薬膳師の資格を取得した。

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1件 のコメント

17年前にロンドンで体外受精をしました

タイガー

当方、17年前に33歳の時にロンドンで体外受精をしました。 年齢が上がると、成功率が下がるため、NHS(英国の国民健康保険)での無料の不妊治療は...

当方、17年前に33歳の時にロンドンで体外受精をしました。
年齢が上がると、成功率が下がるため、NHS(英国の国民健康保険)での無料の不妊治療は受けられなくなります。私は自費の私立の不妊治療に有名な病院で診察してもらったところ、日本のようなタイミング、排卵誘発、人工授精、、といった段階治療を踏まずに、基本の診察と検査の後、「あなたの年齢で、排卵誘発なら成功率はXX%で費用はXX。人工授精なら成功率はXX%で費用はXX。体外受精なら成功率はxx%で費用はxx。どれがいいですか?」と。そのため、生活スタイルや、自分の予算などと考えながら検討できます。私の場合、自営業の仕事もあったので、長期間にわたる治療が避けたく、高額でも成功率が高い体外受精を選び、1回目で妊娠、出産できました。日本のような段階治療だと長期化し、女性の年齢も高くなり、成功率もどんどん下がることがあるのではないでしょうか。不妊治療も、無痛分娩も、自然がイチバンという考え方が強い日本と、効率的に先進医療を積極的に使うイギリスの考え方との違いを感じます。

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