在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
野菜ジュースは野菜の代わりになる?
市販のジュースは「野菜汁入りサプリメントドリンク」です
皆さん、市販の「野菜ジュース」はお好きですか?
市販のものには、トマトジュースのように単品野菜で作られたものや、複数の野菜で作られた100%のもの、それに野菜汁と果物果汁がそれぞれ50%ずつのものなど、さまざまな種類があります。
「なかなか野菜を取れないので、代わりに野菜ジュースをよく飲んでいます。それでよいでしょうか?」
訪問栄養指導で在宅療養中の方を訪問すると、よくこの質問をされます。栄養を取り入れるためにおなかに穴をあける「胃ろう」から野菜ジュースを注入している人もいます。野菜不足を気にして、野菜ジュースを飲んでいる医療関係者もよく見かけます。
結論から申し上げますと、野菜ジュースは「野菜の代わり」にはなりません。その理由を、簡単に解説していきます。
一日の野菜の摂取量の目安が350グラムとされているのは、皆さんご存じの通りです。野菜350グラムは、「量」だけでなくその「質」が大切です。レタスを350グラム食べたとしても栄養的に十分ではありません。ニンジン、ホウレンソウ、ブロッコリーなどの緑黄色野菜と、キャベツ、レタス、タマネギなどの淡色野菜を約半量ずつ、これに食物繊維の豊富な根菜、海藻、キノコ類をプラスすれば、ビタミンやミネラル類、食物繊維などを満遍なく取れます。
この「野菜350グラム」を、すべてミキサーにかけてスムージーにすれば、「野菜そのもの」ですが、市販のジュースの中には「野菜350グラムに含まれる栄養素量」に見合うように、乳酸カルシウムや塩化マグネシウムなどを添加して栄養素を補っているものがあります。だから私は、これらのジュースを「野菜の代わり」ではなく、「野菜汁入りサプリメントドリンク」だと思っています。
もう一つ市販の野菜ジュースの栄養成分表示を見て気になるのは、栄養素の含有量の幅がかなり広いことです。ある野菜ジュースは、1本あたりのビタミンCが60~134ミリグラムとなっています。もしこれが最少量の60ミリグラムであった場合、「野菜の代わり」にするにはやや少ないのです。
また、野菜には旬があります。夏のホウレンソウと冬のホウレンソウでは、ビタミンCの含有量が違います。ゆでたもの100グラムあたりで計算すると、夏のものは10ミリグラムですが,冬のものは30ミリグラムにもなります(日本食品標準成分表より)。このように季節によって栄養素の含有量が変わるため、ジュースの栄養成分を一定に保つことは不可能です。
大半の定番野菜は、最近は1年中販売されていますが、旬のものはやはり栄養価も高く、たくさん出回るために価格も安くなります。私たちは、それらの中から、「今一番おいしくて、栄養価があって、安い野菜」を350グラム選べばよいのです。
先日、スーパーに行くと、ホウレンソウの価格が 一把 300円近くにもなっていました。しかし、今旬を迎えているのはカボチャです。高いホウレンソウをわざわざ買わなくても、旬のカボチャを煮物やポタージュにしてたっぷりと食べれば、「野菜350グラム」のハードルはグッと下がりますね。
未知な栄養素にロマンがあります
さて、訪問先の家庭で、私が「野菜ジュースは野菜の代わりではない」と告げると、皆さん、がっかりしたような悲しげな表情を見せます。期待を裏切られたという気持ちでしょうか。
そんな時は、「野菜の代わりにはなりませんが、エネルギーや微量栄養素を補給するには便利です」と付け加えます。その上で、「ただでさえ食事摂取量が少ない〇〇さんの場合は、食事に影響のない範囲で、野菜や果物のジュースを取ることは良いことだと思います」と伝えています。すると、介護者の表情がぱっと明るくなり、「食生活で足りない栄養素を補う」という本来の野菜ジュースの役割も理解してもらえます。
女子栄養大学の学生だった頃、植物の持つ色素の一つ「リコピン」に抗酸化作用があることが注目されました。それ以来、自然の食品には、まだ知られていない栄養素が含まれていて、それらが私たちの健康に深く関わっていると思うようになりました。未知なる栄養素に期待しながら、採れたての旬の野菜をおいしく食べるのも、ロマンがあると思いませんか?
野菜ジュースに頼る前に、まずは「野菜が取れない食生活」そのものを見直して、少しでも多くの「旬の野菜」を食べられるよう工夫することが大切だと思います。(塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士)
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