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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

「自分らしい治し方」を求めて…医師と議論できるだけの知識が必要

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「自分らしい治し方」を求めて…医師と議論できるだけの知識が必要

 岩瀬幸代さんは、海外旅行ライターとしてスリランカに度々渡航し、古代インド医学のアーユルベーダを実践して、代替医療、補完医療として日本に紹介してきた方です。

 その岩瀬さんが、最先端の西洋医学の世話にならざるをえない事態になり、必要性を理解しながらも葛藤する姿や、医師とのやり取りを、「迷走患者だ」と言いながら克明に、かつ正直に (つづ) った著書が『迷走患者』(春秋社)です。

 目や口が乾く「シェーグレン症候群」や視力低下など、目の症状も記述されていますが、むしろ全身にあちこちの 疼痛(とうつう) を抱えながら、血液検査の結果などに表れる異常と闘い、自分らしい治し方を求め続けます。

 テーマは深刻なのに、一気に読ませてしまう筆力はさすがです。長いライター経験のなせるわざでしょう。

 さて、特異的な免疫抑制効果を示す分子標的薬である「アクテムラ」を導入する段で、岩瀬さん自身の葛藤はピークとなり、担当医に自分の思いをぶつけます。

 結局、その導入に合意した後の記述です。

<――インフォームド・コンセントが当たり前になって、医療が患者主導になって、治療の決定権はどんどん病人側にのしかかるようになった。患者が決めるのは当然だし、自分で決めたいとは思うけれど、厄介な時代だとも思う。だってこっちは、素人なのだよ。でもネットが普及して、(中略)必死に情報を集める。情報の取りようがないなら医師の説明で決めるが、簡単に情報に行きつくから次から次へ調べてしまう。疲れる時代だ。>

 インフォームド・コンセントとは、患者が十分理解した上で(インフォームド)、自由意思に基づいて診療過程や方針に合意する(コンセント)という意味で、これは1997年の日本の医療法改正でも明文化されました。

 ただ、欧米からの「輸入品」であって、日本ではなかなか実態が伴わず、今も相変わらず患者の意思を優先しない医師主導や、逆に患者の医師への丸投げという姿が見受けられます。

 それでも、医療への患者自身の積極的参加というのは理想形です。

 治療においては、コンプライアンス(患者が医療者の指示通りに順守する)から、アドヒアランス(患者自身が積極的に治療方針に関わる形で治療を受ける)という言い方がなされるようになり、さらに最近は、その進化形としてコンコーダンス(患者との協力関係で治療を行う過程)という英国発の用語が用いられます。ここでは、患者には医師とディスカッションができるほど十分な知識を持つことが求められます。

 現代の医学がパーフェクトではないことが、この言葉の背景に潜んでいると思います。ただ、自身の病気のことですから、岩瀬さんの「疲れる時代だ」という感想が出るくらいに患者も勉強することが、たぶん医療においては必要な姿なのでしょう。

 用語だけではなく、中身が伴わなければ意味はないのですけれども。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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