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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

あなたは権利意識を持っているか

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やっかいなのは自分を縛る「内的抑圧」

 人間は本来、いろんなことを見たい、知りたい、やってみたいと思い、自分らしくありたい、自由に生きたいと願うものです。ところが否定的な力やメッセージにさらされるうちに「自分はバカだから何をやってもダメだ」「障害があるから他の人のようには生きられない」「私は女だから、そんなことは無理」「もう私は年だから」と考えてしまいます。外からの抑圧が、内的抑圧をもたらす、権利意識を持てなくなる、それがいちばんやっかいだ――と森田さんは説明しています。

 いじめ、虐待などの被害者や貧困・障害などで困っている人が「助けて」と言いにくいのは、そうした内的な抑圧も関係しています。路上で暮らすホームレス状態の人たちの中で、社会に対して怒っている人は少数です。筆者が取材したとき、彼らがよく口にしたのは「あの職場でもう少し我慢したらよかった」「ギャンブルにはまらなければよかった」といった後悔や、「このままでいい」というあきらめです。たとえ過去に失敗があっても、生存をおびやかされる極貧に耐える必要はないのですが、自分が悪かった、しかたがない、どうせオレなんて、と思ってしまう人も多いのです。

本来の力を取り戻す「エンパワメント」

 「エンパワメント」という言葉は、米国で人種差別に対抗する運動の中で生まれたもので、今では福祉や教育の分野でよく使われます。いろいろな解釈がありますが、新たに力をつけるという意味ではなく、その人が本来持っている力を発揮することです。

 内的抑圧を取り除き、権利意識を取り戻すのがエンパワメントだと森田さんは説明しています。外からの否定的パワーをなくすのはすぐにできないかも知れないが、それと闘うためにも、内的抑圧をなくして権利意識、自尊感情を持つことが重要なわけです。「人権意識とは、知識ではなく、理性ではなく、もっともっと単純なこと、心のありかたなのだ。人権意識とは、『自分を大切にすること』である」と彼女は書いています。

知識・情報・異なる考え方を知る

 何がエンパワメントに役立つでしょうか。知識・情報は、権利を自覚し、他の選択肢を知る助けになります。とくに法律の知識や法的な考え方は有用です。労働者からの罰金徴収を違法と知らなければ、経営者の食い物にされます。教師の体罰は禁止されていて、警察や教育委員会へ通報してもよいと知らなければ、子どもは自分が悪かったからしかたがないと思ってしまいます。

 よけいなメッセージに気づき、とらわれから抜け出すには、異なる考え方を知ることも大事です。いじめや虐待の被害者には「あなたは悪くない」と強調し、発達障害で生きづらい人には「努力や人格の問題ではなく、あなたの特性だから」と伝えたほうがいいのです。

 支援する際は、その人の話に耳を傾けて共感することで安心感を持てるようにする、よいところを見つけて自己肯定感を高める、小さな成功体験を積み重ねて自己効力感を高める、似た境遇にある人と知り合って仲間の経験や新たな可能性を知る、権利保障のために一緒に闘うスタンスを示して信頼関係を築く、といったことも有意義でしょう。

 (原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

 

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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