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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

あなたは権利意識を持っているか

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 あなたは自分のことを、かけがえのない大切な存在だと思っていますか? 安心、自信、自由を奪う者に対して、怒りを持って拒否できますか?

 今回のテーマは権利意識、人権意識です。「助けて」と言えないのはなぜか、という 前回 に取り上げた課題とも関係します。本来の自由な自分が、家族、学校、社会から受ける否定的な力やよけいなメッセージによって閉じ込められ、権利意識を十分に持てなくなるという話です。少し理屈っぽくなりますが、いろいろな福祉問題、社会問題を考えるときに役立つはずです。

人間らしく生きるために必要なこと

 人間らしく気分よく暮らすためには、何が必要でしょうか。まず、土台が三つあると筆者は考えます。第1に「生活基盤」。具体的には住まいと一定の生活費です。第2に「心身の状態」。思い通りにならない病気や障害があるときは、医療や介護などのサービスを受けられるようにする必要があります。第3に「人とのつながり」。ひとりぼっちで孤立していては、苦しいものです。

 社会保障や社会福祉の仕組みはもっぱら、土台の三つに焦点を当ててきました。ですが、それだけでは足りません。権利意識を高める研修に大阪で取り組んでいる森田ゆりさんのとらえ方では、「安心」「自信」「自由」が欠かせないのです(図1)。

図1

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 ここからは、森田さんの本(「エンパワメントと人権」解放出版社)をもとに、かみくだいて説明します。

 最初に「安心」です。戦争、災害、事故、犯罪に遭ったり、暴力、虐待、攻撃、排除を受けたりすると、「恐怖・不安」に生活が脅かされます。次に「自信」。自己肯定感や自己効力感(自分で変えていけるという意識)を含んでいます。否定、いじめ、パワハラ、差別などを受けたとき、きっぱり反発できればよいのですが、人はしばしば自信を失い、「無力感」「劣等感」「あきらめ」の状態に陥ります。そして「自由」は、権力、支配、官僚主義、同調圧力などによって奪われ、「選択肢がない」状況に追い込まれます(図2)。

図2

図2

周囲や社会から受けるメッセージ

 安心・自信・自由を奪うのは、暴力的なものも社会制度的なものもあれば、人間関係のこともあります。さらに、周囲や社会から受け取るメッセージも、人の考え方や気持ちに影響を与えます。

 「女なんだから」「男なんだから」「強くなければダメだ」「辛抱しろ」「周囲や社会に迷惑をかけるな」「みんなと同じようにしなさい」……。家庭や学校で、そんなことを言われませんでしたか。

 さらに「空気を読めない人間はダメだ」「貧しいのは努力が足りないからだ」「病気になるのは生活習慣のせいだ」「障害があるのは不幸だ」……。テレビ、広告、ネットといったメディア経由を含め、そういったメッセージを浴びている人は、やがて自分で信じ込んでしまうのです。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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