在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
男性介護者を孤独にしないサポートを
決して少なくない男性介護者
在宅訪問管理栄養士として訪問するご家庭に、60代~90代の男性が、24時間、ほぼ1人で家族を介護しているケースが少なくありません。ある程度、お年を召した方が在宅介護を始めた理由は、親御さんや奥さんなどが、満床で高齢者施設に入れなかったり、経済的に余裕がなく自宅で介護せざるをえなかったり、医療的なことが理由で老人ホームに入れなかったりなどと、様々です。
「突然」在宅介護を始めることになり、ほとんどの方が試行錯誤します。中高年男性には、家事や育児は女性任せで、自分では包丁を持ったことも、子どものおむつを替えたことがない方もいます。今は、「イクメン」という言葉が流行するほど積極的に家事や育児に関わる男性が多くなってきましたが、まだまだ「家事育児は女性の仕事」と思っている方が多いのではないでしょうか。
そんな男性が、突然家事を担うことになり、さらに初めての介護をすることになったら……。
「それはまれな事例ですよ」と思われるかもしれませんが、 内閣府のデータ によると、主な介護者は、6割以上が「同居している人」となっており、その内訳は配偶者が25.7%、子が20.9%、子の配偶者が15.2%。また、男性が約30%も占めています。
孤独になりかねない男性介護者
9月2日、宮城県塩釜市で開催された「男の介護教室&男性介護者と支援者の全国ネットワーク第1回東北大会」に参加しました。
大会では、男性介護者を取り巻く社会状況が明らかにされました。介護離職をせざるを得ず、経済的に厳しい状況に追い込まれた例や、気軽に相談できる人が身近にいないために情報や助言を受ける機会が少なく、精神的に追い詰められて虐待や無理心中が起きてしまった例がいくつも挙げられました。
平成28年の国民生活基礎調査では、介護をする人、受ける人のいずれも75歳以上のケースが全体の約30%を占めており、「老老介護」の問題も深刻です。
私が今まで訪問した男性介護者の中にも、自力で食事ができない要介護5の妻の食事を介助するのに1回2時間近く費やしている方がいました。飲み込むのが遅く、ペースト状にした食事を、ひとさじひとさじ口に運びます。3食なら6時間。これが毎日続くのです。
時間がかかると、妻も食べることに疲れ、ますます食べるペースが遅くなります。料理の内容や食べ物の形を工夫して介助の時間を短縮できないか、他に栄養補給の方法はないかなど、専門職も含め、じっくり検討できればよいのですが、責任感が強く真面目なその男性は、「自分がやればよいこと」と、すべて抱え込んでいました。
「介護する人も支援する」という視点で
このような男性介護者を少しでもサポートしたいと立ち上がったのが、宮城県石巻市の雄勝歯科診療所に勤務し、地域の在宅療養者の訪問歯科診療を行っている歯科医の河瀬聡一朗先生です。
同じ思いを持った多職種の仲間と「男の介護教室」を主宰し、県内だけでも5か所の会場で開催。その中から男性介護者同士のつながりが生まれました。リピーター率はなんと90%。
教室には、「これから介護をする可能性がある人」「今、介護をしている人」のほかに、「介護を終えた人」も通っているそうです。「介護を終えた人」は、これまで頻繁に来ていた医療介護者がまったく来なくなるために孤独を感じ、「居場所」を求めているのです。
この教室では、介護の経験者が「 看取 りの知識や技術、心構え」を伝えられます。愛する家族を亡くした者同士だからこそ話せることもあるでしょう。今、介護をしている男性にしてみれば、「大変なのは自分だけではなかった」と知ることがとても励みになるでしょう。
2009年に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させた、立命館大学産業社会学部の津止正敏教授は、このような介護者のネットワークの数やその内容を研究しています。津止教授によると、その数は年々増加しているとのこと。みなさんの住む地域にもあるかもしれません。介護で身も心もつぶれそうだったら、1人で抱え込まずに相談してみてはいかがでしょうか。
私は、訪問先で、食について男性介護者ならではの悩みや葛藤を目の当たりにすることがあります。料理ができなくても、簡単に 美味 しく、栄養バランスのよい食事を作る方法をお伝えすることはもちろん、介護者の栄養状態や心身の不調についても確認し、何か異変があれば、主治医やケアマネジャーに連絡しています。
大会に参加して、改めて「介護する人をも支援する」という視点を忘れずに訪問しなければと思いました。(塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士)
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