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コラム

精神科病院での身体拘束を考える(3)

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精神科医療の身体拘束を考える(3)

「精神科医療の身体拘束を考える会」の設立記者会見に臨むマーサ・サベジさん(写真奥・左)。息子のケリーさんは、日本の病院で身体拘束後に亡くなった

米国では病院ごとの実態公開

 日本の精神科病院に入院中に拘束され、後に死亡した患者の遺族らが、長時間の身体拘束を減らすことを求める署名活動をしています。米国では公的保険の支払いを受ける約1600病院の身体拘束時間(率)の一覧が政府機関のホームページ上に公開されていますが、日本の実態は明らかではありません。

 一覧を公開しているのは、米政府で公的保険を扱う「メディケア&メディケイドサービスセンター」という部門です。 ホームページ をクリックすると、病院ごとに「身体拘束使用時間(Hours of physical-restraint use)」という欄があり、「1000時間当たりの身体拘束時間」のデータが出ています。

不正報告には罰則も

 同センターによると、公開は2014年から。メディケア(高齢者と障害年金の受給者向けの公的保険)から精神科入院料の支払いを受ける1688病院が対象で、全米の全ての精神科病院と、救急などの急性期を除いた精神科病床のある病院がこれにあたるそうです。1年間に入院した全ての入院患者の身体拘束時間を入院時間で割って、1000時間当たりに換算したもので、不正な報告をすると、病院への支払いが削減されてしまうという厳しい罰則もついています。

 ホームページには、1000時間当たりの隔離時間(外から鍵のかかる閉鎖室に入った時間)なども示されています。抗精神病薬の多剤投与が問題になっているため、複数の抗精神病薬を処方した場合に、正当な理由があるかどうかもチェックできるようになっています。

 これとは別に、米カリフォルニア州では、2010年から州立の精神科病院での身体拘束や隔離の件数や継続時間などを病院ごとに1か月単位のグラフで公開しています。身体拘束や隔離をする際には、患者だけでなく病院職員がけがをすることもあります。このため、身体拘束や隔離に関連した患者、病院職員の負傷数も公開されています。

情報公開進まない日本

 いずれも法律(カリフォルニアの場合は州法)に基づいたもので、どこの病院でどの程度身体拘束が行われているか一目瞭然です。メディケア&メディケイドサービスセンターの広報担当者は、「患者や家族が精神科病院を選ぶ時の判断材料になるだけでなく、公開することで精神科医療の質の向上にも良い効果をもたらす」といいます。同センターは、病院に対し、身体拘束の時間を「分単位」で記録することを求めています。こまめに記録をつけ、それが公開されることで、身体拘束が「やむを得ない場合のみ」に限って行われるようになっていくと考えられています。一方で、日本の精神科病院での身体拘束は「日単位」での記録だけで、内容も公開されていません。米国の仕組みとは大きな隔たりがあるのが現状です。

 ただ、米国の情報公開も一朝一夕に進んだものではないようです。精神科病院での身体拘束に関する論文を多数書いている米国の精神科医、キム・マスターズさんによると、ヨーロッパで19世紀以前から精神科病院での身体拘束を減らす運動が進んでいたのに対し、米国では長い間、「身体拘束は患者にとって有益」と考える精神科医が多かったとのことです。1960年代以降の消費者運動や裁判、90年代後半の拘束後の死亡事故の新聞報道などをきっかけに社会が注目するようになり、拘束の削減に向けた取り組みが進んだそうです。

 こころの病も、他の身体の病気と同様に、いつ、誰に起きるかわかりません。日本でも精神科病院における患者の扱いについて多くの人が関心を持つことで、より良い方向に向かうのではないでしょうか? (館林牧子 読売新聞編集委員)

 病院での身体拘束について、体験談、ご意見を募集します。医療者の方のご意見も歓迎します。ご意見は iryou@yomiuri.com まで。

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【略歴】

館林 牧子(たてばやし・まきこ)

2005年から医療部。高齢者の医療、小児科、産婦人科などを取材。趣味は育児。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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