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[QOD 生と死を問う]終末期を支える(下)看取る介護職育成

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心の負担どう減らす

 

[QOD 生と死を問う]終末期を支える(下)看取る介護職育成

埼玉県が初めて開催した看取りケアの研修。介護職員らが参加し、家族や医師らと話し合うロールプレイを行った(7月、埼玉県行田市で)

 介護が必要な入所者が多くなり、 看取みと りに取り組む施設が増えるなか、本人や家族の意向をくみながら、終末期に寄り添える介護職員の育成が課題となっている。職員の中には看取りをつらい体験と考え、心理的な負担が大きいケースもあり、施設や自治体は研修の実施や心のケアなど対策に取り組んでいる。

 「大事なのは医療との連携。主治医と家族、職員の相談の場で情報を共有し、利用者や家族とともに方針を決めます」。埼玉県行田市の公共施設で7月下旬、介護施設職員ら約90人を対象に、看取りをテーマにした研修が開かれていた。

 講師は、認知症グループホームを運営するNPO法人ひばりの里ネットワーク( 加須かぞ 市)の近藤るみ子理事長。日常の介護の延長に看取りがあることや、利用者の状態の変化によって家族の気持ちが揺れ動くことなどを説明した。参加した特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの職員は、医師や看護師、家族が話し合うロールプレイにも挑戦した。

 研修は、今年度から「看取り体制強化事業」に取り組む県が初めて開催。県は今後、実態調査と施設向けのマニュアルも作る予定だ。県福祉部地域包括ケア担当の袴田悠子・主査は「在宅と比べて、介護士や看護師などの専門職がいても、利用者の死期が近づくと病院に搬送し、看取りができていない施設もある。職員の技術向上を支え、施設の体制を強化し、地域で最期を迎えたいというニーズに応えたい」と話す。

 

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 常勤医がいない施設や、夜間は看護師が不在になる施設が少なくないなか、人の死に接する機会が少なかった介護職員が看取りの実質的な担い手になることが増えている。慢性的な人手不足の現場で、終末期の心身のケアや家族の支援に関する知識や技術を高めると同時に、職員の心理的な負担軽減も求められている。

 有料老人ホーム「そんぽの家ひばりが丘」(東京都西東京市)では、利用者が亡くなった後、職員同士で看取りの振り返りを行う。その中で「こうしてあげれば良かった」といった職員の思いを共有し、次の看取りにつなげている。

 同ホームの定員は31人で、看護師3人を含む職員約20人がケアを行う。看取りの体制を整えたのは4年前。それまでは家族との話し合いはホーム長など管理者の役割だったが、介護職員も加わり、チームで看取りを行うようになった。

 介護福祉士の川島鈴世さん(29)は当初、利用者が徐々に食事がとれなくなり、痩せていく終末期に接するのがつらかった、という。自身が夜勤の間に亡くなると、「最期に何かできたのではないか」と自身を責めることが多かった、と振り返る。

 支えになったのは、同僚や管理者からの「一人で背負い込まなくていい」といった声かけや、利用者家族の感謝の言葉だ。川島さんは「今でも利用者が亡くなるのはつらいが、最期の日々は、食べられる物を工夫したり、好きな音楽を流したり、出来ることを精いっぱいやろうと思えている」と話す。

 ホーム長の春田愛さん(41)は「利用者の状態を最も近くで見ているのが介護職員。経験を積むことで容体の変化に気付けるようになると、より良い看取りができる。チームで看取りに取り組むことで、新しい職員の教育もできる。『怖い』『大変』といった心理的な負担も和らげ、死生観を深めていくことにもつながる」と話している。

「希望あれば看取りまで」特養78% 取り組み広がる

 

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 国は2006年、介護保険制度の改正で、特別養護老人ホーム(特養)などの施設が看取りを行った場合の「看取り介護加算」を新設した。夜間に看護師がすぐ来られる体制や看取り指針の作成といった条件を満たせば、死亡日から30日前まで、加算が付くようになった。以来、加算の内容は拡充され、看取りに取り組む施設は増えている。

 厚生労働省の16年度の調査では、回答した特養1502施設のうち、「希望があれば看取りに対応」と答えた施設は78%に上った。同省の補助金事業で野村総合研究所が同年度に行った調査(約5000施設が回答)でも、有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のいずれも65%以上が対応するとしていた。

 一方、同調査では、対応できない理由として、「夜間は看護職員がいない」「看護職員や介護職員の数が足りない」などの答えが挙げられた。

 ◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。

 (粂文野)

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