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コラム

精神科病院での身体拘束を考える(1)

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息子ケリーさんの写真とともに記者会見に臨むマーサ・サベジさん

息子ケリーさんの写真とともに記者会見に臨むマーサ・サベジさん

どうあるべき? 病院の身体拘束

 日本の小中学校で英語教師をしていたニュージーランド人男性、ケリー・サベジさん(当時27歳)が今年5月、精神科病院で身体拘束を受けている間に、突然亡くなりました。ケリーさんの遺族は、日本の医療関係者、弁護士、患者家族らと「 精神科医療の身体拘束を考える会 」をつくり、病院での長時間の身体拘束を減らすよう求める署名活動を続けています。母親のマーサさん(60)は、「日本の病院で不必要な身体拘束がなくなるようにしてほしい」と訴えています。

息子の突然の死

 「死はあまりにも突然で信じられませんでした」

 記者会見のために来日したマーサさんは、言葉少なに語りました。米国出身のマーサさんは、日本の大学で研究員として働いていた経験もあり、現在はニュージーランドの大学で地震学を教えています。ケリーさんも、日本の文化を研究している兄が、神奈川県に住んでいることもあり、自分自身、日本で子どもたちに英語を教えることを夢見てきました。

 母国の大学で日本語と心理学を専攻。ところが、大学に入って精神的な不調が襲い、一時期は治療に専念せざるを得なくなりました。それでも、6年かけて大学を卒業し、2015年から鹿児島県の小中学校で外国語指導助手(ALT)として働き始めました。ケリーさんの働きぶりを知る現地の学校関係者は、「いつも笑顔で、子どもたちや周囲の人みんなから慕われていました。精神疾患があるとはまったく気づきませんでした」と言います。

 マーサさんも、昨年、夫とともに日本を訪れ、鹿児島でのケリーさんの授業を見学しました。ちょうど、ハロウィーンの時期で、ケリーさんが飾りつけをしたという教室で、ゲームをしながら英語を学ぶ子どもたちが、皆楽しそうだった、と言います。休み時間にはケリーさんに駆け寄って、「一緒に遊んでほしい」とせがんでいたそうです。「病気を克服し、夢を実現した息子の姿を見て、私たち夫婦がどれほど 安堵(あんど) し、うれしく思ったことか」。

 けれども、今春、事態は突然、暗転します。兄の家に滞在中、そううつ状態になり、大声で騒ぎ始めました。症状がひどく、結局近くの精神科病院に、措置入院になりました。ケリーさんの兄によると、付き添って病院に到着した時のケリーさんの様子は穏やかで、外から鍵のかかる閉鎖の個室に入り、指示通りにベッドに寝たのですが、その時点で、手首、胴、足を拘束されたとのこと。それから10日後、ケリーさんは心肺停止状態で見つかり、救急病院に搬送されましたが、その後、亡くなりました。

拘束に命の危険

 人は長時間、からだを拘束され続けると、足に血栓ができ、それが肺に移動して詰まってしまう 肺塞栓症(はいそくせんしょう) (エコノミークラス症候群)を起こしやすくなります。命の危険もありますが、ケリーさんの死と身体拘束の因果関係は不明のままだそうです。病院側は取材に対し、「提訴予告を受けており、一切話すことができない」と回答しています。ただ、マーサさんたちが開示請求をした診療記録によると、ケリーさんは入院中、容体が落ち着いて、暴れる様子がない時でも、からだを拭く時間以外はずっと身体拘束が続いていたことがわかっています。

 マーサさんら遺族は、ケリーさんの死と拘束の因果関係もさることながら、不必要と思える身体拘束自体が問題ではないか、と考えています。マーサさんによると、ケリーさんはニュージーランドでも、そう状態になり、精神科病院に入院したことがありました。そこで騒いだ時は、数時間、何もない閉鎖室に隔離はされましたが、身体拘束されることはなかったそうです。「これまでの経験から、日本の医療は素晴らしいと思っていたのに、なぜあんなことが行われたのか信じられません。精神科の患者も、他の病気の患者と同じように、尊重され、支援されるべきなのではないでしょうか?」とマーサさんは言います。

もしも、あなたの子どもに起こったら?

 ケリーさんの死後、マーサさんら遺族は、他の精神科病院でも身体拘束中に亡くなった患者がいることを知り、冒頭の「精神科医療の身体拘束を考える会」を結成しました。病院の身体拘束は、精神科だけでなく、高齢者の入院治療でも行われることがあります。自分を傷つけたり、暴れて病院のスタッフを傷つけたりするのを防ぐために必要な局面もあるのかもしれません。けれども、皆さんは、マーサさんのように大切に育ててきた自分の子どもが身体拘束をされたまま亡くなったら、どう思いますか? 病院での身体拘束はどうあるべきなのか、議論が必要なのではないでしょうか? (館林牧子 読売新聞編集委員)

 病院での身体拘束について、体験談、ご意見を募集します。医療者の方のご意見も歓迎します。ご意見は iryou@yomiuri.com まで。

※「精神科医療の身体拘束を考える会」のホームページはこちら

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【略歴】

館林 牧子(たてばやし・まきこ)

2005年から医療部。高齢者の医療、小児科、産婦人科などを取材。趣味は育児。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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