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僕、認知症です~丹野智文43歳のノート

医療・健康・介護のコラム

早期発見 早期絶望

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「なんで認知症になったの?」

 そんな調子で、役所の窓口にはあまりいい思い出がないのですが、中でもひどかったのは、年金担当部署に行った時のことです。

 診断から1年ほどたち、地元の「認知症の人と家族の会」などで、少しずつ情報も得ていた頃でした。「これまでのように働けなくなったら、障害年金がもらえる」と聞いて、あらかじめ説明を聞いておこうと思ったのです。

 入り口近くにいた若い女性に「私自身が認知症なので、障害年金のことを聞きたい」と説明すると、すぐに奥に行き、上司らしき中年男性を連れてきました。

 その男性に「本当に病院に行ったのですか?」と聞かれたので、すでに取得していた精神障害者保健福祉手帳を出しました。私が若いので信じてもらえなかったのか、それでもまだ、いぶかしげな表情です。

 やっと女性が障害年金制度の説明を始めたのですが、「病気が治る可能性があるので、年金の申請は、初診から1年6か月たってからです」と言うのです。病気によっては、治る場合もあるから、そういう決まりになっています――という説明なら、まだ理解できるのですが、アルツハイマーは現代の医学では治らないことを知らないのでしょうか。マニュアル通りに話しただけなのでしょうが、治らない病気を抱えた人に、「治るかもしれないから」なんて、絶対に言うべきではありません。

 嫌な気持ちを抑えて説明を聞いていると、今度は男性の方が突然、話を遮って「なんで認知症になったの?」と聞くのです。

 私がなぜ認知症になったのか……こちらが聞きたいくらいです。この若さで認知症というのが珍しかったのかもしれませんが、あまりに無神経な物言いだと思いました。

 これですっかり懲りてしまい、しばらく役所の窓口には1人では行かないようにしていました。結局、認知症の人が自分で窓口に来ること自体が、当時は「想定外」だったのでしょうね。

支援が乏しい「空白の期間」

 認知症の当事者の間ではよく、「早期発見、早期絶望」という言葉を使います。役所や医療機関で、認知症を早く見つけて対応することが重要として、「早期発見、早期治療」と言われているのをもじったのだと思います。

 他の病気なら、早いうちに治療すれば、すぐに治ったり、それ以上の悪化を防いだりということもあるでしょう。しかし、アルツハイマー型認知症に関しては、早く見つけても、今は薬で進行を遅らせるのが精いっぱいなのです。

 多くの人にとって、認知症といえば「何も分からなくなる」「街を徘徊する」というイメージです。これまでは、マスメディアに出てくるのは認知症が進んだ人ばかりでしたから、仕方ありません。でも重度の人も、いきなりそうなったわけではなく、症状が軽い時期が何年もの間あったはずなんです。病気は少しずつ進みますが、本人の工夫と周囲の支えで、残された能力を生かしながら充実した生活を送ることもできるのに、そのことがほとんど知られていません。

 だから認知症になったことが分かると、周りから「何もできない人」と見られるようになります。そして、大半の人が仕事を失います。そのうえ公的な支援制度の多くは、病状が進んで介護が必要になってから、やっと使えるようになるのです。ですから、その手前の段階を「空白の期間」と呼ぶ人もいます。

 これでは、早く病気を見つけても、早く絶望するだけです。そういう実情を表したのが、先ほどの言葉なのです。

 私は、不自由な入院生活からようやく抜け出したものの、その途端に「早期絶望」の壁に突き当たったのです。まるで真っ暗闇の中、手探りで出口を探しているような感覚でした。(丹野智文 おれんじドア実行委員会代表)

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丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

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