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田村編集委員の「新・医療のことば」

ニュース・解説

「標準治療」こそ、最善の治療

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「標準治療」こそ、最善の治療

 よく耳にするのに、なかなか誤解が解けない言葉に「標準治療」があります。

 「標準」には「平均的な」とか、「普通の」といった意味があります。そのためなのでしょうか。「標準治療」というと、平均レベルの治療で、さらに上の治療があるように思う人がいるようです。

 しかし、それは誤解です。医療の現場で使われる「標準治療」とは、臨床試験などの結果に基づいた科学的根拠のある、「現時点で最善の治療」です。にもかかわらず、特にがん治療の現場において、科学的根拠が不十分な治療情報が、主にインターネットにあふれています。

遺伝子治療でトラブル

 がん細胞の増殖を抑えるという遺伝子を、運び役のウイルスに乗せて体に注入する「がんの遺伝子治療」をめぐって、患者側とクリニックとのトラブルが相次いでいることを、先日、 本紙 が報じました。効果や安全性が確認されていない国内未承認の方法で、もちろん保険は利かず、費用も高額です。

 遺伝子を体内に注入する治療法は、生まれつき特定の遺伝子がない難病などにおいては開発が特に期待されていますが、おおむね研究途上の段階です。

 誤解の元には、「がんゲノム(全遺伝情報)医療」の存在があるかもしれません。こちらは、がんの遺伝情報に応じて最適な治療法を選択する、国のがん対策の柱の一つです。遺伝子変異のタイプに応じて、分子標的薬という薬を使い分ける治療法が、すでに大腸がんや肺がんなどで保険が適用されています。

 どちらも「遺伝」という言葉が使われるので紛らわしいかも知れませんが、遺伝子そのものを体内に注入する「がんの遺伝子治療」、分子標的薬を使うがんゲノム医療とは、まったくの別物です。

免疫療法でも

 免疫療法でも、似たような状況があります。

 改定中の国の新しいがん対策推進基本計画では、「科学的根拠を有する免疫療法について」と、わざわざ「科学的根拠」という枕ことばを付けた上で、免疫療法の1項目が設けられました。

 免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」(ニボルマブ)の登場に代表されるように、手術、放射線療法、化学療法と並ぶ、がん治療の第4の柱として期待を集めています。異物を攻撃する免疫が、がん細胞へは働いていない仕組みを解明した成果に基づくもので、オプジーボに続く新薬も開発されつつあります。

 その一方で、「科学的根拠に基づかない」がんの「免疫療法」の情報が、インターネットなどにあふれています。保険が利かず、自費診療で高額なのは「がんの遺伝子治療」と同様です。基本計画案がわざわざ「科学的根拠のある」と言っているのも、「十分な科学的根拠がある治療法とそうでない治療法があり、国民にとっては区別が困難な場合がある」(基本計画より)ためです。

患者の弱みにつけ込んでよいのか

 日本で1年間にがんで亡くなる人は、40万人近くに上ると推計されています。科学的根拠はないと頭では分かっていながら、わらにもすがる思いでこういった「治療」に最後の望みを託した患者も少なくないことでしょう。だからこそ余計に、弱い立場の患者を食い物にする罪深さが際立ちます。(田村良彦 読売新聞東京本社編集委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)
1986年、早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で医療報道に従事し連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。2017年4月から編集委員。共著に「数字でみるニッポンの医療」(読売新聞医療情報部編、講談社現代新書)など。

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