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難病の夫が妻に残した物語、「絵本にしよう」と2人で約束…夫の死後に実現

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難病の夫が妻に残した物語、「絵本にしよう」と2人で約束…夫の死後に実現

生前の恭嗣さん(左)と昭子さん(仙台市で)

 全身の筋肉が衰える難病「筋ジストロフィー」と長年闘い、9年前に52歳で亡くなった仙台市の男性が、妻の誕生日のために書き残した物語が絵本になった。

 取りえがないことに悩む主人公のネズミが、身を削りながら頑張って愛する相手に贈り物をする物語。「きいろいばけつ」などで知られる絵本作家の土田義晴さん(60)(東京都)が絵を添えた。妻は「難病と闘う人を勇気づけたい」と話す。

 絵本を作ったのは、阿部 恭嗣やすつぐ さん、昭子さん(62)夫妻。小学生で発病した恭嗣さんは生前、障害者が自立を目指して共同生活する民間ホーム「仙台ありのまま舎」設立に参加。ボランティアの昭子さんと知り合い、結婚した。昭子さんは、施設の運営や講演活動に尽力する恭嗣さんを支えた。

 恭嗣さんが物語を書き始めたのは2005年。同年秋、大腸がんの手術を受けてほとんど会話もできなくなっていたが、翌年1月の昭子さんの51歳の誕生日のためにと、口で操作する特殊なマウスとパソコンを使い、内緒で書き進めた。

「アキちゃんは神様が僕に託した贈り物」

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絵本「やっちゃんの贈り物」。ネズミのやっちゃんが歯をボロボロにしながらアキちゃんの像を作る場面

 「やっちゃんの贈り物」と題する原稿用紙7枚分の物語は、恭嗣さんが自身を投影したネズミのやっちゃんが、大好きなアキちゃん(昭子さん)の誕生日プレゼントを探して旅をするという内容。「鈴虫のように歌うことも、 つばめ のように軽やかに飛ぶことも、 あゆ のように泳ぐこともできない」と悩むやっちゃんは最後に、前歯をボロボロにしながらカシの木を削ってアキちゃんの像を作る。

 「僕は思うんだ。アキちゃんは神様が僕に託した贈り物じゃないかってね」。物語は愛の告白で終わる。2人で「絵本にして残そう」と約束したが、08年7月、絵本作りは「宿題」のまま恭嗣さんが亡くなった。

 宿題を実現する機会が訪れたのは今年の正月。地元の百貨店「藤崎」が、自分が望む物語を絵本にしてくれる福袋「世界にたったひとつの絵本」を企画し、昭子さんが応募して抽選で選ばれた。土田さんは「感謝を伝えようとする恭嗣さんの思いを感じ、涙が止まらなかった」という。

 土田さんが下絵を描き、昭子さんが色付けした絵本は、7月に計10部の製本が完了した。恭嗣さんの母校である仙台市内の特別支援学校などに贈るほか、仙台市の図書館に寄贈することも検討している。昭子さんは「夫は主人公のネズミのように身を削り、前向きに生きる姿を示し続けた。約束を果たせてうれしい」と話している。

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