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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

フリークライミングで「見えない壁」越えられるか…立ち塞がるのは「心の壁」

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フリークライミングで「見えない壁」越えられるか…立ち塞がるのは「心の壁」

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 第11回心療眼科研究会が7月8日、杏林大学で開催されました。テーマは「心療眼科の展望」で、従来の枠を超える医療の試みを多方面から検討する機会になりました。

 治療的レクリエーション(TR)という試みが、レクリエーションセラピストの木本多美子さん(NPO法人「モンキーマジック」)によって紹介されました。これは、疾病や障害を持つ人々に対し、意図的、計画的にレクリエーションを提供する概念です。

 日本では聞き慣れませんが、米国にはレクリエーションセラピストという公的資格を持つ専門家が1万5000人もおり、病院、施設、地域で活躍しています。

 木本さんらのグループでは、フリークライミング(東京五輪の新種目に採用されたボルダリングとほぼ同じスポーツ)を利用したTRを進めています。

 このTRでは、健常者とともにゴールを達成していく過程で、身体的、精神的、社会的、知的効果を得ることが目標で、視覚障害者に応用した豊富な経験を例示してくれました。しかし、「『やってみよう』と思ってくれる人をどう増やし、どう探すかに課題がある」といいます。

 多くの日本人には、米国の文化人類学者、ルース・ベネディクトがかつて指摘した「恥の文化」というべき心的構造が存在するようです。つまり、他者の内的感情や自己の体面を重んじるため、過度な慎重さと消極性を持っているのです。

 そこに、障害や疾病が加わると、今まで以上に表に出ることを 躊躇(ちゅうちょ) します。

 私の外来に来られる視覚障害者にもよく見られる傾向ですが、障害を (さら) すことをよしとせず、いつの間にか一般社会との間に壁を作り、自分自身が生きる空間を狭めているのです。

 欧米発のTR活動が認知されることは、障害者の生きる空間が広げられる可能性を宿していると思いました。

 研究会では、私自身も支援しているNPO法人「目と心の健康相談室」の理事長、荒川和子さんも「相談室の意義―医療現場でできること、できないこと―」と題した講演を行いました。

 目と心の健康相談室は開設3年目に入りましたが、今年3月までに電話相談が103件、対面相談62件、メール相談は18件あり、次第に利用者が増加しているとのことでした。

 視覚障害のある方の相談は24%にとどまり、障害にならないが、 (まぶ) しい、痛いなどで、快適な日常視が困難な例や、疾患や失明に対する不安を訴える相談が圧倒的に多いことが特徴でした。一般の医療機関での短い診察時間では、とても対応しきれない複雑な心の問題も含まれていました。

 相談室の目標は「生活者として相談者を支えることだ」と荒川さんは話しました。こういうスタンスでの相談を必要とする潜在的需要は、まだ多くあると思われますが、TRと同じように、そこに行き着くには当事者の一歩を踏み出す積極性がカギになるでしょう。

 相談室では、少しでも存在を知っていただくために、9月15日午後に、講演会と無料相談会を開催します。詳しくは ホームページ をご覧ください。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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