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元ちゃんハウスより~がんと生きる医師・西村元一の手紙

コラム

西村詠子さんに聞く(下)穏やかな最期 仲間に後を託して

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大切な人に囲まれて

  ――昨年秋以降、次第に進んでいた病状が、5月に入ると目に見えて悪化。副院長を務める金沢赤十字病院で同月31日、家族や仲間に囲まれて静かに息を引き取った。

西村詠子さんに聞く(下)穏やかな最期 仲間に後を託して

亡くなる4日前「元ちゃんハウス」を訪れた患者や「がんとむきあう会」のメンバーに囲まれて写真に納まる西村さん。詠子さん(左から2人目)がそっと寄り添う。西村さんが「元ちゃんハウス」に足を運ぶのは、この日が最後になった(2017年5月)

 亡くなる1週間前、仕事のおつきあいのある方などに、「連絡が滞った場合のために、詠子のメールアドレスをお知らせします」というメールを送っていました。特にお世話になった人には、「今までありがとう」とも。私の方にも同時に送信されてきたのですが、一晩中、寝ないで書いて送ったんじゃないかと思うくらい、たくさんのメールが並んでいました。そろそろだという予感が、本人にもあったのでしょうね。

 最後に「元ちゃんハウス」に行ったのが5月27日。その次の日から、ちょっと意識がぼんやりしてきたので、子どもたちを呼んで、親しい人にも連絡しました。

 それからの数日間は、様々な人が代わる代わる病室にやってきて、主人の手や足をさすってくれました。31日の夜9時過ぎに亡くなったのですが、その日はちょうど主治医と長年お世話になった看護師長が当直で、受け持ちの看護師が夜勤だったんです。「この日を選んで逝ったんだな」と、合点がいきました。

 手術の際に胃を全摘して横隔膜も取ってしまっていたので、平らなところに横たわるとおなかの中のものが食道を逆流してきます。ですからずっとベッドの背を少し上げて寝ていたのですが、最後の数日は、呼吸を楽にするためにベッドを平らに戻しても大丈夫でした。肺に水がたまっていたので呼吸困難になるのを心配していたのですが、酸素吸入も (たん) の吸引も、最後にほんの少しやっただけ。主人が「そうなったら嫌だな」と恐れていたようなことにはなりませんでした。

 もしも今、本人に尋ねることができるなら、「いやいや、本当は苦しかったんだよ」なんて答えるかもしれませんが、あの時は、そばで見ている私たちがつらくなるような様子が全くありませんでした。穏やかな最期だったと思っています。

  ――西村さんの死後、詠子さんが「がんとむきあう会」理事長の役職を引き継ぎ、「元ちゃんハウス」の運営に当たっている。

 最後まで、「元ちゃんハウス」が存続できるのかどうかが気がかりだったようです。おつきあいのあった著名な先生たちに「私がいなくなった後も、よろしくお願いします」と頼んでいたと聞きました。

 亡くなる少し前、「ここは、つくってよかったのかな」とも言っていました。会のメンバーにも、「どう頑張っても無理となったら、支援して下さった方々にきちんと報告したうえで、やめてもいい」と伝えていました。皆、「そんなことせんよ」と言ってくれましたが。

 私は、結婚したときに看護師をやめてからずっと専業主婦だったし、この2年2か月は主人の闘病を支え続けてきたので、「元ちゃんハウス」がなかったら今頃は何をしていいのか分からなかったんじゃないかしら。主人は、一人残していく私のために居場所をつくって、私のことを仲間に託していった。そんな気がしているんです。

 主人の愛した金沢の街で、地域に根ざした施設として「元ちゃんハウス」を育てていくのが、これからの私の役目です。これまでと変わらない細やかな心遣いをモットーに、みんなで力を合わせて頑張ります。

西村元一さんインタビュー(上)患者になってわかったことを広く伝えたい

西村元一さんインタビュー(下)金沢マギー、元ちゃん基金…がんが与えてくれた贈り物

がん闘病の医師が奔走…患者が医療者と憩う「元ちゃんハウス」オープン

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nishimura_200

西村 元一(にしむら・げんいち)

 金沢赤十字病院副院長、第一外科部長。1983年、金沢大学医学部卒業。同大学病院教授を経て、2008年4月より金沢赤十字病院外科部長、09年副院長に就任。専門は大腸外科。日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会など複数の学会の専門医・指導医。がんとむきあう会代表。15年3月、肝臓に転移した胃がんが見つかった。闘病前から温めていた「街中にがん患者が医療関係者と交流できる場所を」という願いを実現し、16年12月、金沢市内に「元ちゃんハウス」をオープンした。17年5月死去。がんとむきあう会のウェブサイトはこちら

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