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元ちゃんハウスより~がんと生きる医師・西村元一の手紙

コラム

西村詠子さんに聞く(下)穏やかな最期 仲間に後を託して

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 消化器外科医で自らも胃がんを患っていた西村元一さんは、念願だったがん患者支援施設「元ちゃんハウス」のオープンから半年の今年5月31日、58歳でこの世を去った。ヨミドクターの連載は、「元ちゃんハウス」での患者同士の情報交換や励まし合いが、どれだけ支えになっているかをつづったコラム(5月12日公開)が最後になった。西村さんの亡き後、運営団体「がんとむきあう会」の理事長を引き継いだ妻の詠子さん(58)が、最後の日々を振り返った。(ヨミドクター 飯田祐子)

無念のみ込み、残した「ギフト」

  ――西村さんは「元ちゃんハウス」を、自分ががんになったからこそ得られたものとして、「キャンサーギフト(がんからの贈り物)」と呼んでいた。

 確かに、主人が病気にならなければ、こんなに早く実現することはなかったかもしれません。でも、周りがその言葉を軽々しく口にしてはいけないと、私は思っていました。本人だって、がんになんてなりたくなかったでしょう。まだまだ生きて、やりたいことがあったはず。悔しくて、無念で、いろんな気持ちがあったと思います。でも、なってしまったら仕方ない。病気になってからの人生にも意義を見つけたい、という気持ちから、「キャンサーギフト」という言葉が出たのだと思います。がんになった本人だけが言っていい言葉だと私は思っています。

 主人は講演では、よく「人間とは、生まれてきたら何かを残したいと思うもので……」と言ってました。まずは子どもということになるのだろうけど、そのほかにも何か残したいと思うものだと。形のあるものとしては「元ちゃんハウス」だったのでしょうし、自分の思いや経験を講演などを通じて多くの人に伝えることも、主人にとっては「自分が生きた証し」だったのではないでしょうか。

  ――いよいよという時に、どこまで医療処置をするべきなのか。西村さんの体力がだんだんと衰えていく中で、詠子さんは考えていた。

 本人の気持ちを確認できればよいのですが、状態が悪いときは、そういう話はしづらいですし、かといって調子のいいときは、「せっかく気分も上向いている時に、そんなこと聞かなくても」と思ってしまう。結果、「聞けない」というのが、多くの人の本音なんじゃないでしょうか。

 私は、「『元ちゃんハウス』で、様々な状態の患者さんに対応しなくちゃいけないから、そういう時はどういう気持ちなのか、聞いておきたいんだけど」って、一般論として尋ねてみました。すると、「分からん」という返事だったんです。

 私は、自分なら人工呼吸器はつけたくないと思っていましたが、主人は、「それで楽になるならつけるかもしれん」って。結局、「その時になってみな、分からん」と。

 主治医は信頼する後輩の医師ですから、私とその先生で相談しながら決めてほしいと思っているんだろうな、と受け取りました。

 その場を乗り越えれば状態が良くなるなら頑張りますが、それは望めない。だとしたら、おのずと答えは決まってきます。子どもたちが東京から駆けつけるまでは……とも思いましたが、その場合も苦しみが強いようなら、無理をするつもりはありませんでした。結局、その必要はなかったのですが。

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西村 元一(にしむら・げんいち)

 金沢赤十字病院副院長、第一外科部長。1983年、金沢大学医学部卒業。同大学病院教授を経て、2008年4月より金沢赤十字病院外科部長、09年副院長に就任。専門は大腸外科。日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会など複数の学会の専門医・指導医。がんとむきあう会代表。15年3月、肝臓に転移した胃がんが見つかった。闘病前から温めていた「街中にがん患者が医療関係者と交流できる場所を」という願いを実現し、16年12月、金沢市内に「元ちゃんハウス」をオープンした。17年5月死去。がんとむきあう会のウェブサイトはこちら

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