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第23回 口腔保健シンポジウム

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[第23回 口腔保健シンポジウム](2)講演 歯周病、血糖下がりにくく

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九州大学大学院歯学研究院副研究院長・教授 西村英紀さん

[第23回 口腔保健シンポジウム](2)講演 歯周病、血糖下がりにくく

 健康寿命を脅かすリスク要因の多くは、働き盛りの壮年期から大きくなります。若い時より栄養を過剰にとっている人が多く、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や2型糖尿病、心臓血管系疾患のリスクが上がります。逆に高齢の人は栄養不良の状態で、認知症やがん、末期の糖尿病や介護が必要な状態になっていきます。

 栄養状態は、私たちの体を守る免疫と関連します。壮年期に栄養を過剰にとる人は免疫機能も過剰に活性化していて、肥満や糖尿病になりやすくなります。逆に高齢で栄養状態の悪い人は免疫機能が働きにくく、感染症にかかりやすくなります。

 歯周病は感染症です。病気を起こす細菌が体内に入って、体は菌を排除しようと、強い炎症を起こします。炎症を起こす物質がたくさん作られて、血糖を下げるインスリンの働きを邪魔します。

 歯周病を治療すると、炎症の度合いがきれいに下がり、糖尿病の指標であるヘモグロビンA1c(血糖の状態を示す)も改善することが分かりました。重度の歯周病を治療すると、ヘモグロビンA1cが平均で約0・4%良くなり、最も良いと1%も改善します。これは、手足の切断を約40%予防でき、また、失明の原因となるような小さな血管障害を30%防げるということを示しています。

 体内で、インスリンを作り出す細胞は、 膵臓すいぞうβベータ 細胞1種類だけ。非常に弱く、負担をかけると破綻してしまいます。

 歯周病を治療せずに炎症が続くと、インスリンの効きが悪くなります。血糖を下げようと、体は無理にインスリンを分泌します。米国の研究で、長寿の人はインスリンの血中濃度が適正に維持されていることが分かりました。逆にちゃんとインスリンが効かずに、無理に血中にたくさん分泌していた人は、20年後の生存率が低かったのです。

 健康寿命を延ばすには、糖尿病のコントロール、つまり壮年期の歯周病治療が大事なのです。

 日本人の歯が抜ける原因を世代別にみると、歯周病で歯を抜く人は45歳を過ぎると増えます。さらに働き盛りで太った人や糖尿病の人、たばこを吸う人、ストレスを抱えている人は、歯周病が一気に重症化します。だから食事や運動に加え、歯科医師によるチェックも大切なのです。

 一方、寝たきりの高齢者などでは、低栄養状態で抵抗力が弱まり、菌が増殖します。毒素が体中に回って敗血症性ショックを起こしやすくなり、 誤嚥ごえん 性肺炎の危険も高まります。要介護状態の人は口腔ケアが重要です。

 糖尿病予防の観点から、高齢者は栄養を口からとることが大事だと分かってきました。ブドウ糖を静脈から注入した人よりも、口から摂取した人の方が、インスリン分泌量が多かったのです。口から栄養をとって吸収される時だけ、消化管の壁からあるホルモンが出てβ細胞に作用し、インスリン分泌が促されます。

 米国の研究では、よくかんでのみこむ人と、あまりかまずにのみこむ人では、よくかむ人の方が、消化管ホルモンが出ることが分かりました。逆に、食欲を増進させるホルモンが出る量は少なく、かむことが肥満予防につながるのです。

 高齢の人は、できる限り、よくかんで味わい、栄養をとることで、筋力低下を防げる。歯は大事なのです。

歯周病 原因は細菌

 歯の汚れによって細菌が増え、周辺の歯肉に炎症を起こす。出血や腫れを引き起こすが、あまり自覚症状がないまま進行する。やがて歯を支える骨が破壊されて痩せていき、歯が抜けてしまう。早い人では40歳代後半頃から抜ける人もいる。

 主な原因は細菌の塊である歯垢の中の細菌。虫歯の原因となる菌とは異なる。2型糖尿病やメタボリックシンドローム、心臓病、脳卒中など、様々な病気との関わりが明らかになってきている。

 ◆ にしむら・ふさのり  1985年九州大学歯学部卒業。90年に米国コロンビア大学歯学部に留学。広島大学大学院医歯薬学総合研究科教授を務めた後、2013年、九州大学大学院歯学研究院教授。

【参考になるウェブサイト】

◇日本歯科医師会 テーマパーク8020
http://www.jda.or.jp/park/

◇サンスター Mouth&Body PLAZA
http://www.mouth-body.com/

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