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薬手帳、外出時は常に持ち歩くべきもの

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薬手帳、外出時は常に持ち歩くべきもの

 以前から年に1、2回程度、目のことが心配だからと私のところに通院して来られる60歳代の女性Fさんは、心配そうな表情で話し始めました。

 買い物に行こうと玄関を出てあたりを見たら、何かいつもとは違うぼやけた見え方でした。夏で日差しが強いためだろうかと、慌てて戻ってサングラスを捜して出しましたが、やっぱり、どこかピントが合わないような、 (まぶ) しいようないつもと明らかに違う見え方だったということです。

「そういう状態が3、4日続いたのち元に戻りましたが、これって白内障が進んだせいでしょうか」

「でも、今は治っているのですよね、それなら白内障のせいということはないでしょう」

 水晶体の濁りはわずかですし、視力検査やほかの見え方の検査結果もほぼ正常ですから、私はそう答えました。

 実は、その現象があって間もなく近所の眼科医で診てもらうと、「白内障の症状だから手術しましょう」と言われたとのことです。しかし、症状が改善してきたので、その判断が () に落ちずに私の診察日を待っていたということでした。

 「Fさん、外がぼやけたという体験をした日の前に、何か特別疲れるようなことをしたり、風邪などで体調が悪かったりしたことはありませんでしたか」

 私は、視覚に一時的な異変が生じるような因子が何か隠されていないか、様子を聞いてみました。

 Fさんは少し考えて、「少し前に孫たちを預かることがあって、少し疲れていたかもしれない」といいます。

「よく眠れていましたか」と誘導尋問をしてみました。

「疲れをとろうと、入眠剤を2,3度使いました」

「なるほど、では、それかもしれませんね。何という薬でしたか」

「あ、何でしたっけ、薬の名前はちょっと……。時々、内科の先生に処方いただいています」

「お薬手帳を見せてください」

「持ってきていません」

「えっ」

「今日は眼科なので、持ってきていません」

 後で、その薬はマイスリーという睡眠導入薬であることが判明しました。この薬の副作用として、視力低下、 霧視(むし) (ぼやけて見える)が知られています。

 ベンゾジアゼピン系や類似作用を持つ睡眠導入薬の多くで、視覚系のこのような現象が出現することは私の臨床経験上でも時々あり、添付文書に書かれている場合もあります。

 この事例では、この一過性の副作用のことよりも、「お薬手帳」を持つ意義を改めて見直すべきことを強調したいのです。

 Fさんが「目を診てもらう眼科に行くのに、内服薬のことを聞かれるとは思っていなかった」というのは、わからなくもありません。しかし、私はFさんに以下のように伝えました。

「お薬手帳は、家にしまっておくものではありません。外出時は常に持ち歩くべきものです」

 外出先で万一、災害や病気のために意識障害が出ても、医師がその手帳を見ればその人の普段の健康や病気の状態がわかります。それに薬の作用は、その薬を処方した診療科以外の組織、臓器に及ぶことがあることを、常識として知っておく必要もあるのです。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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