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認知症の疑い、運転は
医師が診断、免許停止も…改正道交法
75歳以上の高齢ドライバーに対する認知症対策が強化された改正道路交通法が3月に施行され、各地の警察で対応に追われている。認知症が疑われた場合は医師の診断を受けなければならず、認知症と診断されると免許取り消しや停止処分になる。対象の高齢者に制度をきちんと理解してもらうため、自宅まで出向いて説明することもある。地方に住む高齢者の場合、車が運転できなくなった途端、日々の生活に困るという声も出ている。
■警察は返納促すが…
滋賀県警甲賀警察署の一室で5月上旬、「認知症のおそれ」と判定された男性(81)が同警察署交通課の警察官に訴えていた。「買い物や通院など、1日2回は車で出かけている。ずっと無事故無違反だし、免許は返したくない」。同席した妻(77)は「夫婦で1台ずつ別々の車を運転している。本人が納得しないと運転はやめさせられない」と男性を擁護した。
約1時間の面談中、男性は日付を答えられないなど不自然な会話が目立った。この警察官は「認知症かどうかに関係なく運転は危険」と判断、免許返納を促し、返納した場合に受けられる公共交通機関の割引サービスなどを紹介した。ただ、男性も家族もこの日は納得していない様子だった。
滋賀県警などでは「認知症のおそれ」と判定された高齢ドライバー全員と警察官が面談し、運転頻度や車が運転出来なくなった場合の代替手段の有無などを尋ねている。
この警察官は法改正後に何人もの高齢者を担当したが、本人も家族も認知機能の低下を疑っておらず、その場で免許返納を決めたのは1人だけ。「医師の診断を受けると言ったまま、手続きが進まない人や、何度自宅を訪ねても会話が成り立たず、面談の日さえ決まらない人もいる」とこぼす。
■「ないと生活困る」
「免許が失効し、無免許運転になったらと思うと、放置できない」。和歌山県警は、対象の約100人に電話をかけ、手続きが進まない場合には家族に協力を要請、約10人は警察官が自宅を訪問した。
大阪府警も対象者約400人に医師の診断書を提出する手順などを記した書類を送付した上で、繰り返し電話をかけている。ただ、「何のことだかよく分からない」「開封していない」という人もおり、自宅を訪問するケースもあるという。
家族からも戸惑いの声が出ている。埼玉県内に住む女性(53)は、愛知県内に住む父親(84)が、免許更新で「認知症のおそれ」と判定されたと母親から告げられ、初めて異変に気付いたという。弟と連絡を取り、病院を探して診断に付き添った。「車がなければ買い物に行くのも不便な地域。両親の生活をどうするのか、困っている」と話した。
改正道路交通法 3月に施行され、運転免許更新時などに行う認知機能検査で「認知症のおそれ」と判定されると、医師の診断が必要になった。認知症と診断されると、免許停止や取り消し処分に。検査結果の判定は、改正前と同じく「認知症のおそれ」のほか、「認知機能低下のおそれ」「問題なし」の3段階だが、改正前は、「認知症のおそれ」とされても、すぐに診断の必要はなく、診断書を提出したのは2015年で1650人だった。
「警察官が直接説明」多く…本紙調査
読売新聞が6月、47都道府県の警察本部にアンケート調査したところ、「認知症のおそれ」と判定された高齢ドライバーへの対応(複数回答)として、28警察本部が「本人に電話をかける」と回答した。
「警察署に来てもらったり、自宅を訪問したりしている」も16警察本部あるなど直接、制度を説明する対応が目立った。また、4警察本部は「(本人だけでなく)家族にも同時に連絡する」という対応をとっている。
改正後の課題については、「担当部署の負担が大きい」が13警察本部で最も多く、「増員を検討している」も同数あった。このほか、「免許がなくなった後の交通手段の確保」を挙げたのが8警察本部。「受診費用や通院など、高齢ドライバーの負担が大きい」と心配する回答も5警察本部から挙げられた。
「本人の同意が得られれば高齢者の情報を地域包括支援センターへ連絡する」としたのは滋賀だけだったが、今後、情報提供を行いたいとする声も複数寄せられた。
診断の費用・日数はまちまち
認知症の診断で、どのような検査を受けるかは、本人の状態や医師の考え方によって異なる。通院日数もまちまちで、費用は数千円から2万円以上という。
警察庁の有識者会議メンバーで、お多福もの忘れクリニック(水戸市)の本間昭医師によると、CTやMRIなどの画像検査は、慢性硬膜下血腫などアルツハイマー型認知症以外の原因がないかなどを見るための検査という。どちらか一方で十分で、必要ない場合もある。問診や簡単な検査で診断できることもある。
同クリニックでは、免許更新のための診断にかかる費用は約8000円。原則、その日に診断書を手渡す。
本間医師は「大病院に行けば初診日にそのまま検査することは難しく、数日通うことになる。費用だけでなく、通院にかかる時間も負担になる。日頃の様子を把握しているかかりつけ医がいるなら、まずは相談した方がよい」とアドバイスしている。
(大広悠子)
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