在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
私がキャラ弁を作らない理由
前回の連載で、「食中毒予防3原則」に基づいて、お弁当作りのコツを具体的にご紹介しました。その例に挙げたのがキャラ弁でしたが、私はそれ自体を否定しているわけではありません。私のママ友には、お弁当の蓋を開けただけで子どもたちの歓声が上がるようなかわいいキャラ弁を作っている人がいます。そのために前日の夜からおかずを仕込んだり、早朝4時に起きていたりと、私には到底 真似のできない努力を重ねながら、芸術的なキャラ弁を作っていて、尊敬しています。
しかし、私はキャラ弁を作りません。私の「食育方針」に合わないためです。
スタジオジブリのアニメーション映画「となりのトトロ」で、主人公のサツキがお弁当を作るシーンがあります。病気で入院しているお母さんに代わって、小学生のサツキが家族全員のお弁当を作るのですが、妹のメイは、ご飯の上に桜でんぶがふりかけられるのをうれしそうに見つめ、手渡されたお弁当に目を輝かせます。私の大好きなシーンのひとつです。たとえ毎日同じおかずが入っていたとしても、派手なキャラ弁でなくても、お弁当は子どもにとってかけがえのないものです。そして、栄養のバランスが良く、安全に作られたものであるということが最も大切だと思います。
さらに、ひとつ心配なことがあります。もしかしたら、子どもは周りの友達にキャラ弁を自慢するかもしれません。私は、子どもは「自慢したい生き物」だと思っています。例えば、最新のゲーム機、新しくてかっこいいサッカーボール、 可愛いワンピース……、そして「すごいキャラ弁」。それを手に入れたら、自慢せずにはいられないでしょう。自慢するだけではなく、他の友達のお弁当を 馬鹿にしたりする子どももいるかもしれません。
お母さんがいなくて、お父さんが作り慣れないお弁当を作っている友達もいるかもしれません。経済的に厳しくて、お弁当にいろいろなおかずを詰められないのかもしれません。さまざまな家庭環境の子どもたちと、それぞれのお弁当。子どもにとっては世界にひとつのお弁当です。馬鹿にされたらどう思うでしょうか。
食育は子どもだけが対象ではない
さて、2005年に施行された「食育基本法」第1章第2条には、次のように示されています。「食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨として、行われなければならない」
続いて、第3条にはこうあります。「食育の推進に当たっては、国民の食生活が、自然の恩恵の上に成り立っており、また、食に関わる人々の様々な活動に支えられていることについて、感謝の念や理解が深まるよう配慮されなければならない」
「食に関する適切な判断力を養う」とはどういうことなのでしょうか。
「自分に必要な食事」がどのようなものかを理解し、「健全な食生活」を実践できることだと私は解釈しています。
例えば、お弁当を開けた時。ごはんやパン、肉や魚や卵、野菜が一定の割合で入っていることを見ることで、「バランスの良い食事」がどのようなものなのかを知ることができます。お弁当作りの時、私も煮物のニンジンを花形にしたり、ハート形にカットした 海苔をおにぎりに貼り付けたりすることもありますが、なるべく素材の色や風味を損ねないように注意しています。
我が家のお弁当は、ごはんとおかずの割合は基本的に1対1です。部活などの激しい運動でエネルギー消費の激しいお子さんの場合は、主食の割合を増やしてもいいでしょう。そして、おかずは肉や魚、卵など「たんぱく源のおかず」と「野菜のおかず」を1対1にしています。これはしおじゅん流の「ゆるっと栄養バランス弁当」の比率です。キャラ弁にしてしまうと、どの食材がどのくらい入っているのか、目で見て理解するのが難しくなります。
食育基本法第1章第3条「感謝の念や理解が深まるよう配慮されなければならない」も、大変重要です。料理を作ってくれた人や、生産者への感謝の気持ちを忘れずに、食べ物をいただく。何より他の生き物のいのちをいただいていることを忘れてはなりません。
食育は、子どもだけではなく、生きている限り大人にも必要だと分かります。成長期の「食育」はとても大切ですが、高齢社会を迎えた今、「健康寿命を延ばし、最期は穏やかに逝くための食育」も必要だと思います。
在宅医療を受ける患者さんの中にも、適切な「食育」を受けてこられなかったために、食生活が乱れてしまっている方がいらっしゃいます。「食に関する適切な判断力」を養うことなく、栄養バランスの悪い食生活を続けたことが、脳梗塞や心疾患、糖尿病などさまざまな生活習慣病の原因になることも少なくありません。コンビニやスーパーにはたくさんのお弁当やおにぎりが並び、いつでも手軽に食べ物を手に入れられる時代だからこそ、すべての年代の人に「食育」が必要なのではないでしょうか。(塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士)
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