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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

精神科の身体拘束は、死の危険を伴う

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本来は例外的な手段

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身体拘束の方法(長谷川利夫・杏林大教授提供)

 精神保健福祉法では、身体拘束は、精神保健指定医の資格を持つ医師が診察して必要と認めた場合しかできません。厚労省の処遇基準は「制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならない」とし、拘束を行う際は、患者本人に理由を知らせるよう努めることを求めています。

 そのうえで身体拘束の対象になりうる状態として次の3種類を示し、ほかに良い代替方法がない場合に行うとしています。3種類にあてはまらない場合は、拘束してはいけないわけです。また、隔離と同様に「制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあってはならない」とも強調しています。

ア 自殺企図または自傷行為が著しく切迫している場合

イ 多動または不穏が顕著である場合

ウ ア・イのほか、精神障害のために、放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

 今回、男性の遺族は「病院に着いた時点で本人は暴れていなかった。措置入院が決まり、保護室のベッドに寝るように指示された。本人は抵抗もせず、言われた通りにベッドに寝たのに、足、腰、手首を拘束された。拘束する必要はないのではと看護師に聞いたが、とりあえず拘束されるという返事だった」と説明しています。さて、拘束の必要はどこまであったのでしょうか。

血栓症の予防が必要

 精神科で身体拘束された患者が静脈血栓・肺梗塞で死亡した例は、日本でも1970年代から報告されています。日本総合病院精神医学会が06年に発表した「静脈血栓塞栓症予防指針」は、患者の身体状態などに加え、身体拘束と薬物による鎮静が血栓症のリスクを高めるとし、個々の患者のリスクを評価して対処するよう求めています。予防策としては、ベッドに寝かせきりの期間をできるだけ短くすることと積極的な運動、弾性ストッキング、脚に巻いた器具に空気を送り込み、圧迫したり緩めたりする間欠的空気圧迫法や薬物使用(低用量のヘパリン)を挙げています。

 日本精神科救急学会の「精神科救急医療ガイドライン」(2015年度版)では、身体拘束は、心理的副作用(不本意な状況や不自由に伴う感情的な苦痛)のほか、肺塞栓症、廃用症候群(手足の筋肉の衰えによる機能低下)、 褥瘡じょくそう (床ずれ)など、種々のリスクを伴うと指摘し、リスクに応じた適切な予防措置、注意深い観察、発生した場合の速やかな治療を求めています。

 また血栓の疑いがあれば、血液中のDダイマーを測定するよう求めていますが、「確定診断につながる造影CTや肺動脈造影などの検査は、多くの精神科医療機関で行うことはできない。より侵襲(注:身体に傷をつけたり影響を与えたりすること)が少ない超音波検査でさえも容易ではないため、各医療機関が試行錯誤しているのが現状である」とも述べています。

 多くの精神科病院では、十分な検査体制が整っていないまま、多数の身体拘束が行われているわけです。それでよいのでしょうか。命にかかわるリスクは患者や家族に説明して同意を得ているのでしょうか。精神科の患者の生命や尊厳は、軽く扱われていないでしょうか。(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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