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白血病ウイルスの予防マニュアル…母乳感染のリスク明示

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白血病ウイルスの予防マニュアル…母乳感染のリスク明示
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 難治性の血液がん「成人T細胞白血病(ATL)」を引き起こすウイルスが、母から子に感染するのを予防する新しいマニュアルが完成した。母乳を通じて感染する危険性をより明確に示し、乳児は粉ミルクなどで育てることを勧めることが大きな柱だ。

  ■潜伏期間30~50年

 ATLは、「ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)」に感染した白血球の一つのT細胞が、がん化して発症する。ウイルスの潜伏期間は30~50年と長い。また感染者の95%は無症状のまま一生を過ごし、発症するのは感染者の5%と低い。新規患者は毎年1000人程度とみられる。

 皮膚の発疹などが現れる「慢性型」や「くすぶり型」のタイプで、ほかに症状がほとんどない時は治療せず経過を見守る。しかし体のだるさや、リンパ節の腫れなどが出る「急性型」「リンパ腫型」は、複数の抗がん剤を併用する方法や、骨髄移植などで治療する。近年では、抗がん剤治療で抑えられなかったり、再発したりした患者に対する新薬も出てきた。

 がん研有明病院(東京)の血液腫瘍科部長、畠清彦さんは「これまでは治療が難しかった患者でも、治療効果が期待できるようになってきた」と話している。

 ウイルスの国内感染者は推計100万人以上もいる。治療が難しいだけに感染防止が大切だ。ただ、感染力は非常に弱く、せきやくしゃみ、銭湯、食器、蚊などから感染することはない。大人の主な感染経路は性交渉に限られる。

 子どもは主に、感染者の母親が分泌する母乳からうつる。母から子に感染する割合は、母乳を与え続けると17.7%だが、粉ミルクなどを使うと3.3%に下がることがわかっている。

  ■粉ミルク勧める

 現在、HTLV―1感染は妊婦健診の時に公費負担で調べている。マニュアルでは、感染がわかった母親に対し、原則として粉ミルクなどによる「完全人工栄養」を勧めると明記した。

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 これまでの医師向けマニュアルには「生後90日未満の短期間授乳」や「凍結母乳の使用」も選択肢に挙げられてきた。今回は、感染が防止できるか科学的に証明されていない点を指摘し、短期間授乳などは「感染のリスクを説明しても母親が母乳を与えるのを強く望む場合」に限定した。

 マニュアルを作成した厚生労働省研究班で代表を務めた昭和大学病院長で小児科医の板橋 家頭夫かずお さんは「母親の思いはわかるが、感染予防では母乳を遮断することが大切」と訴える。

 母乳以外の未解明の感染経路も一部あるとみられている。しかし感染者である母親の子ども全員について感染状況を調べておく必要があるかについては、専門家の間でも結論が出ていない。ほとんどが無症状で生涯を過ごせるからだ。

 ただ、子どもへの感染がわかっている場合には、保護者などが時期を見て子どもに感染を伝えておくと、不意に感染を知ることによる精神的なダメージを和らげたり、性交渉における感染防止策を考えたりできるなどのメリットがある。

 板橋さんは「妊婦健診で感染が分かって戸惑うことも多い。医療者が寄り添い、対処法を一緒に考えることが大切だ」と話す。

 (森井雄一)

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