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いちばん未来のシニアのきもち

コラム

小さな困りごとで、けっこうな苦労

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 こんにちは、慶成会老年学研究所の宮本典子です。

 高齢者は、超高齢社会のいちばん先をいく人たちです。共に生きやすい社会をつくることは、次の世代の未来をつくることになると思いませんか?

 今回は、私の体験をお話しします。

開けては閉める、レジ係の謎のふるまい

 少し前のことになりますが、スーパーのレジでとても印象深い場面に遭遇しました。

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 会計を待つ列で、私の前にいたのは高齢の女性でした。

 レジ係は、値段を打ち込み終わると、商品を袋に詰め始めました。

 女性はビン詰めをいくつか買っていました。そのビン詰めを袋に入れる直前に、レジ係がびんのふたを一度開け、閉め直してから袋に入れたのです。

 別のビン詰めのふたを同じように一度開け、また閉めました。また一つ、ふたを開けてから、また閉めて……。これを何度も繰り返し、ビン詰めすべてを買い物袋に入れ終えたのでした。

 客が購入した物を 躊躇(ちゅうちょ) することなく勝手に開けるレジ係。そのふるまいに、目を丸くしていると、高齢女性が私の方を振り返り、笑顔で言ったのです。

 「一人暮らしだからね、家に帰っても、ふたを開けてくれる人がいないのよ。だからいつも、『開けて』って、お願いしているの」

 筋力は、私たちの体の中で、加齢により最も弱りやすいと言われます。その筋力の低下に伴い、日常生活の中で、不自由になることが増えていきます。

 たとえば……

 固く閉まったビンのふたが開けられない。

 食べ物や飲み物を載せたトレーを、自分で運びにくい。

 買い物袋が重いと、持てない。

 長い時間立ったり、並んで待ったりできない。

 洋服のかたいボタンがはずしにくい。

とてもわずかな差であっても

 菓子屋の店頭で接客をしている方から、こんな話を聞いたこともあります。

 高齢の女性が、手のひらにのる程度の、小さなお菓子を1つ持って重さを確かめ、次に2つ持って重さを確かめ、最後に、「やっぱり重いから、1つにしておくわ」と、お菓子を1つだけ買って帰ったそうです。

 高齢になると重いものが持てないことは、十分に理解しているつもりだったけれど、そんな少しの重さの違いがとても大きな問題なのだと、改めて気づいたと言っていました。

 そういえば、私の母も、私と出かける時は携帯電話を家に置いていきます。携帯電話1つでも、カバンに入っているのといないのとでは、腕の疲れ方が違うのだそうです。

 筋力が低下してできなくなることや不自由に感じることには、個人差があります。でも、その影響は、どうやらこちらの想像の域を超えているようです。

 レジ係に、ビン詰めのふたを開けてほしい、とさらりと頼んでいた、あの高齢女性は、かっこいい。

 自分のできないことを、誰かに頼んで助けてもらう。何でもそうできたらよいのですが、そうはいっても、なかなか簡単なことではありません。

 一方で、高齢の方が何に困っているのか、どのような時に不自由さを感じているのかをわかっていなかったり、気づいたとしても、声をかけられなかったりします。「さりげないサポート」というのも、案外難しいものです。

 まずは、「何かお手伝いできることはありませんか?」とひとこと声をかける勇気を持ちたいものです。(宮本典子 臨床心理士)

(イラスト:小牧 真子)

 
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宮本典子(みやもと のりこ)

 慶成会老年学研究所主任研究員。 臨床心理士。

 聖心女子大学文学部歴史社会学科人間関係(現人間関係学科)卒業。

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 主に認知症高齢者、高齢期のうつ病の心理療法及び介護家族の心のケアにかかわる。自宅で暮らす高齢者や認知症の人を対象に、情緒の安定や認知機能の低下予防をめざす心理療法プログラム「ユリの木会」を運営している。共著に「認知症と診断されたあなたへ」(医学書院)、編著に「いちばん未来のアイデアブック」(木楽舎)がある。

慶成会老年学研究所

 高齢社会に関する心理学的、医学的臨床、研究、及び教育・研修を行う研究所として、1988年に設立。現在、心理学の専門家によって、高齢者と家族を対象にしたカウンセリング、専門職や一般企業への教育・研修と、高齢者と高齢社会に関する学際的な研究を行っている。

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4件 のコメント

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ハムのパック

ばなぼん

ハムのパック。50歳目前の私も開けにくい時があります。 私の母は80歳代で独り暮しなので、キッチンバサミを愛用しているようです。ハムは最初にパッ...

ハムのパック。50歳目前の私も開けにくい時があります。
私の母は80歳代で独り暮しなので、キッチンバサミを愛用しているようです。ハムは最初にパックごと半分に切ってタッパーに移し冷蔵庫にいれています。朝ハムエッグに使う時に切る手間が省けて一石二鳥だそうです。
袋に入った野菜の袋を留めてあるテープや
お菓子の個包装とも格闘することは早くから諦めハサミで切っていました。ですので、家の要所要所にハサミが有ります。

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頼もうとしない家内

めざめたじいさん

昭和九年生れの夫婦です。 家内はハムのパックに苦労しています。「あけぐち」とあるパックの口が開かないのです。 指先に力が入らないのですが、必死で...

昭和九年生れの夫婦です。
家内はハムのパックに苦労しています。「あけぐち」とあるパックの口が開かないのです。
指先に力が入らないのですが、必死で開けようと頑張っています。
見かねて手を出すと、指に力が・・と落胆します。私にはいとも簡単なのですが。
力の衰えを信じたくない家内の気持ちが良く分かります。
瓶詰めの蓋は、用具があるので簡単に開けられます。パック用の用具はないのでしょうか。
ハムの会社に問い合わせてみたいのですが、そこまでしっかり貼り付けないといけないのでしょうか。

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小さな親切大きなお世話

コノハナサクヤ

つい先日、手動車いすの高齢者が、横断歩道を渡り終えるのに遅くなっていたので、 その後ろを歩いていた私は、「少し押しましょうか?」と、脇から声をか...

つい先日、手動車いすの高齢者が、横断歩道を渡り終えるのに遅くなっていたので、
その後ろを歩いていた私は、「少し押しましょうか?」と、脇から声をかけました。
すると、「触らないで!」と、大声で怒鳴られました。
きっと、ご自分のペースがあって、他人に押される方が不安だったのでしょうけれど、急に怒鳴られた私は、とても傷つきました。
親切と迷惑は紙一重、難しいものですね。

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