文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

お口ケアと健康

お口ケアと健康

健康・ダイエット・エクササイズ

削らない虫歯治療の最新事情

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

金属やセラミックより強度は劣る

 技術の進歩で素材が強くなったと言っても、樹脂のレジンは金属やセラミックに比べると強度は劣り、すり減ったり、欠けたり、変色したりすることがある。自費治療で歯科技工士に作ってもらう「クラウン」と呼ばれるかぶせ物の中には、コンポジットレジンで作った「レジンクラウン」という素材もあるが、セラミックの方が品質に優れるとされている。それに加えて、口の中で直接修復するコンポジットレジン修復には、細菌が集まりやすいと指摘する歯科医もいる。田代さんも「歯科技工士が精密に作ったツルツルの金属やセラミック素材と違って、口の中で作るので歯と歯の間など、研磨しきれない部位も出てきます。細菌が付着しやすいという指摘は認めざるを得ないところがあります」と言う。こう説明されては、やっぱりB級の素材なのか、と思われるかもしれない。

弱点は強み?

 そこが講習会のテーマでもある「発想の転換」になる。すり減ったり、欠けたりするのは、それほど気にしなくても良いのではないかという新たな視点だ。田代さんの師匠に当たる、東京医科歯科大学の田上順次教授が指導してきた考え方である。

 「セラミックは優れた素材ですが、硬いので、向かいの歯を傷めたり、かぶせ物を支える土台になる根が割れたりすることがあります。コンポジットレジンはそれほど硬くないので、かみ合わせに応じて、すり減ってくるので、機能的な問題はありません。かみ合わせは年齢とともに変化し、必要に応じて歯を手直ししていけばいいのです。コンポジットレジンは歯の形も色も簡単に調整できますから、不具合があれば、使いやすく手を加えて歯自体をメンテナンスしていけばいいのです」と田上教授は説明する。

 「一生モノ」と思い切って、高価なセラミックを入れる人もいるだろう。セラミックで上質なかぶせ物を作り、歯を削って土台を整え、ていねいにかみ合わせを調整する。しかし、口の中の歯は、細菌が生息する環境の中で、熱さや冷たさにさらされ、かむ時の強い力に耐えている。完璧に治療をしても、細菌が入り込んだり、体調によっては残っていた細菌が勢いを増したりして、虫歯の再発や根のトラブルに襲われることがある。セラミックや金属でも、欠けたり壊れたりすることはある。再治療となれば、さらに大きく歯を削らなければならない。歯は置物ではなく使うものなので、良い素材で丁寧に治療したからといって長く持つ保証はない。

メンテナンスの考え方を治療費にも

 「歯はメンテナンスをしながら使っていくもの」という考え方は、田代さんの治療費の設定にも表れている。大きな治療は自費負担をお願いしているが、前歯は1本10万円、奥歯は5万円とし、歯の治療代と言うよりも、保証料と考えている。前歯は10年保証で、その間に壊れるようなトラブルがあれば、何度でも無料で治す。奥歯は大きな力がかかるので、保証期間を5年と短くしたので、料金も前歯より安い。「1本10万円の歯を売るのではなく、10万円でその歯を少なくとも10年間は一緒に維持管理していきましょうという考え方です」と説明する。かぶせ物という「モノ」を買うのではなく、歯を使える状態にしておく「こと」にお金を払う。まさに「発想の転換」である。

 とは言え、コンポジットレジンの修復では、細菌が集まりやすいのがやはり気になるが、そこにもまた「発想の転換」があるようだ。田上教授は「コンポジットレジンは接着剤で歯にくっつけるわけですが、金属やセラミック素材のクラウンやブリッジを歯に接着するセメントよりも接着力が1.5倍ぐらい強いのです。ぴったり密着して歯と一体化していれば、歯垢がついても細菌が歯の中に入りにくので、虫歯の再発リスクを減らすことができます」と説明する。

 コンポジットレジン修復という治療方法は、歯学研究の領域のひとつ、接着学から出てきている。歯科治療で接着技術が重要なことは想像がつくが、この分野は日本がリードしているのだという。コンポジットレジンは強度が高まってきたこともあり、用途は広がっている。参考までに、ほかの治療例も紹介しておきたい。

歯が折れた時やスキッ歯にも対応できる

折れてしまった歯

折れてしまった歯

コンポジットレジンで歯を修復

コンポジットレジンで歯を修復

 前歯を折るというのは、中高生が部活中にやってしまうことが多い。旧来型の治療では、歯を削って金属の軸を立て、色を合わせたセラミックなどの歯をかぶせていた。子どもの場合は、成長に伴い歯の色やかみ合わせが変わってくるので、再治療になる可能性が高い。治療を繰り返せば、歯はどんどん小さくなっていく。コンポジットレジンを使えば、歯をほとんど削ることなく修復できる。田代さんは「若い先生は、この方法で治している方が多いと思います」と語るが、従来型の削ってかぶせる治療も行われている。

 次は、いわゆるスキッ歯の修復だ。どう治療するか。「歯を削って隙間を埋める形のクラウンをかぶせる」、「薄いセラミックを貼り付ける」、「矯正で治す」といった方法が考えられる。できれば歯を削りたくないし、矯正は時間がかかる。コンポジットレジンで形を整えれば、歯を削らずに、写真のように隙間を埋めることができる。

隙間が開いた前歯

隙間が開いた前歯

2本の歯を少しずつ大きくして隙間を詰めた

2本の歯を少しずつ大きくして隙間を詰めた

 自費診療での価格設定やアフターサービスの考え方は歯科医によって異なる。一般的な治療がいいのか、コンポジットレジンがいいのか、歯の状態やかみ合わせ、歯ぎしりなどの癖の有無によっても、最適な治療は違ってくるだろう。コンポジットレジンを使った「できるだけ削らない歯科治療」は、治療法のバリエーションのひとつとして、頭に入れておいて選んでいただきたい。(渡辺勝敏)

 ※歯の写真は、田代浩史さん提供

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

お口ケアと健康の一覧を見る

最新記事