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がんで死亡するリスクを減らすには…斎藤博さん

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 日本人の死因のトップを占める「がん」は、2人に1人が (かか) るといわれている。その早期発見のために重要なのが「がん検診」だが、日本人の受診率は3割前後と、欧米諸国の半分程度しかない。なぜ、そこまで受診率が低いのか。一方、より手軽な方法でがんを見つけ出そうという研究も進められている。がんで死亡するリスクを避けるために、私たちはどうすべきなのか。国立がん研究センター・社会と健康研究センター検診研究部長の斎藤博さんにお話を伺った。

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「進行がん」になる前に「早期がん」を捕まえる

斎藤 博  (さいとう・ひろし)

医学博士。1952年生まれ。1978年、群馬大医学部卒。弘前大助教授などを歴任。がん検診の有効性評価及び精度管理、消化器内科学が専門。著書に「がん検診は誤解だらけ」(NHK出版)。

「匂い」でがんが見つけられる?

 がんを見つけ出すために、生物の力を活用する方法が注目されている。山形県金山町は「がん探知犬」を使った検診を全国で初めて試験導入することを決めた。「探知犬」は、人の尿などの匂いから、がん患者の尿を嗅ぎ分ける。一方、虫の動きでがんかどうかを判断する、新たな診断方法も発表されている。体長1ミリほどの線虫が好きな匂いには寄っていき、嫌いな匂いからは逃げる特性を活用、がん患者と健康な人の尿にどう反応するか調べると、がん患者の尿にだけ寄っていく。どちらも、受診する人の負担が少なくて済むため、検診の受診率が飛躍的に向上する可能性が期待されている。

――犬も線虫も匂いを手がかりにがんを見つるということですが、こうした新たな研究が進みつつあるのですね?

斎藤  犬は「がんの匂いを嗅ぎ分けられるのではないか」ということで、何年か前から研究が始まっています。その成績は、相当期待が持てるものではあります。

――確かに検診を受ける人にとって、肉体的負担が極めて小さくて済みそうです。コスト面なども含め、期待できる部分はあるのでしょうか?

斎藤  有望ですが、研究としてはまだ初期の段階です。でも、非常に成績も良いので、これからぜひ最終段階までいって、本当に検診に使えるか、確かめたいですね。そうなれば、手軽さやコストの安さは大きなメリットになります。

――これは、犬や線虫を使って徹底的に解析し、正確な結果を得よう、というよりは、「もしかしたら、あなたはがんかも知れないよ」という「気づき」を手軽にできるようにするのが目的、と理解すべきでしょうか?

斎藤  そもそも「検診」と、困って病院においでになる患者さんに対する「診断」とは違います。「診断」は患者さんに行うので、病気がある確率や、がんがある確率は相当に高い。そこで、あらゆる手だてを尽くして「診断」する必要があります。一方、「検診」は、健康な人が対象です。こういう方には、がんはほとんどない。1000人に3~4人しかいない。残りの996~7人は、がんはありません。ですから、違った方針で行わないと、健康な人にいたずらに不必要な検査をしてしまうことになります。

――最近は、血液を少しだけ採取して、がん診断をしようという研究もあるようですね。日本の研究は、世界的レベルの中で先を行っているのでしょうか?

斎藤  がん対策の上からも診療の上からも、検診の重要性・意義は大きい。それだけ研究の需要もありますから、世界各国でいろいろな研究が行われていると思います。ただ、私も含めて誰もが良い検診法を目指していますが、なかなか完成させるまでのハードルが高いのです。

低い検診受診率の根底にある誤解

図1 BS日テレ「深層NEWS」より

図1 BS日テレ「深層NEWS」より

――こういった形で検診の間口が広がれば、とも思いますが、日本ではがん検診を受ける人の割合が相当低いのですね。グラフを見ると、少しずつ受診率が上がってきてはいても、20パーセントから多くても37~8パーセント。先進国の標準からすれば低い方ということです。人々が、「受けにくい」と感じる原因はどこにあるのでしょうか?

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