文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

深層プラス for yomiDr.

医療・健康・介護のニュース・解説

がんで死亡するリスクを減らすには…斎藤博さん

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

斎藤  がん検診の目的は、そのがんで亡くなるリスクを具体的に減らすことです。これは必ずしも、「見つける」のと同じではない。検診法はいずれも、皆さんが想像する最先端の検査と比べ、地味に見えるかも知れません。しかし、この5種類のがんの検診が死亡リスクを確実に減らすことが実証されていて、かつ、検診による不利益も少ないことが確認されているのです。検診を受けて確実にメリットを受ける、つまり、そのがんで亡くなるリスクが減る。検診を受けるのは健康な人たちなので、副作用を受けず、苦痛も少ない方が良い。この二つの条件をクリアした検診なのです。

――斎藤先生に図を持ってきていただきました。これは、検診がどういうものか、概念を示しているわけですね。

図4 斎藤博さん作成のがん検診概念図

図4 斎藤博さん作成のがん検診概念図

斎藤  この図は、「検診」と病院の「診断」との違いを氷山に例えています。水面は症状の有無を分けています。水面の上は、症状があって見えやすい患者さんです。こういう方にあるがんは、症状があるので、「進行がん」が大半です。一方、健康な人にあるがんは症状に結びついていないので、「早期がん」が圧倒的に多い。この「早期がん」が時間をかけて図の水面に向かって浮上して、ある時に健康な人が患者さんになります。その前に捕まえよう、というのが検診の戦略なのです。

 ところが、ややこしいことに、早期がんの浮上するスピードは、非常に多様なのです。あるものは90歳になるまでに水面に顔を出さない。あるものはボトムの辺りにずっと居座ったままで、もし検診がなければ誰も気がつかないものもあります。

――がんにも、具体的な悪さをしていないものもある訳ですね?

斎藤  そうです。検診で見つけるべきは、浮上して「進行がん」になってしまう勢いがあるものです。「早期がん」を全部見つける必要はありません。最先端の精度が高い検診では、たくさんのがんが捕まるのですが、場合によっては、あまり浮上しないものだけを捕まえることにもなりかねない。先ほど、「検診の実力を計るには段階がある」と言いましたが、最初は患者さんのがんを捕まえて、よく見つかるかどうかを見るわけです。患者さんだけを使っていれば、検診は陽性に出やすい。健康な人たちを使って、たくさんの人でテストをしないと実力がわからないのです。

図5 BS日テレ「深層NEWS」より

図5 BS日テレ「深層NEWS」より

――厚生労働省の検診実施のための指針の図を見ると、例えば、肺がん検診なら単に「40歳以上。年1回」と書いてあります。でも、ほかに何年間に1回はCTスキャンを撮った方がいいかも知れない。受診者からすれば、どういう検診が良いのだろうと迷ってしまいます。

斎藤  今のところこの図にあることに尽きます。CTについては今研究中で、よく見つける反面、余計なものも見つけてしまう面もあります。ただし、有望な方法ですから、今臨床試験をしているところです。

――女性が気になるのは、乳がんの検診でマンモグラフィーという胸を挟んで圧迫する検査を体験をした人から、「非常に痛いので、やりたくない」という声も聞かれます。こういう負担が、実際に受診率の低下につながっている面はありますか?

図6 BS日テレ「深層NEWS」より

図6 BS日テレ「深層NEWS」より

斎藤  部分的には影響はあると思います。しかし、乳がんについては、このマンモグラフィーが唯一科学的根拠が確立された検診なのです。今、それに加える有望な方法として超音波をテストしていますが、まだ研究中で、結論を出せない状況です。

――それがある程度の知見が得られれば、痛みを伴わずに受診しやすくなる可能性を秘めているのですね。

斎藤  そうですね。マンモグラフィーにも超音波検査にも、見つけられる病変と見つけられにくい病変がありますから、超音波検査についての効果が証明されれば併用する、という道筋が考えられています。

――企業によっては、推奨されている5つ以外にいろいろな検診のバリエーションを設けて取り入れているところも多いようですが、これはどうなんでしょうか?

斎藤  日本での問題は、科学的根拠に基づかないものも行われていることです。がん対策以外の個人向けの検診では、そういう選択もあり得ますが、個人にとっても目的は、「がん死亡のリスクを減らす」ことであり、科学的根拠が必要ですね。

――そうすると、自分で病院に行ってがん検診を賢く受けようと思ったら、さっきの五つのものを中心にすべきで、それ以外のものを特別にお金を払って検査してもらったり、マーカーを取ってもらったりするのは、個人レベルでは必要ないと考えてよいのですか?

斎藤  個人の価値判断にもよりますが、何よりもメリットを確保して、がんで亡くなるリスクを確実に下げられる検診を受ける。不利益もあるので、無駄に検診を受けないためには、ガイドラインで推奨されている検診を受けるのが一番確実です。

3 / 4

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

深層プラス for yomiDr.の一覧を見る

最新記事