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脳性まひ・産科医療補償制度の導入から8年、支給対象が減少
出産事故で重い脳性まひになった子どもに補償金を支給し、原因分析や再発防止策の検討も行う産科医療補償制度。導入から8年、対象は減少傾向にあり、関係者は「脳性まひが減ったのでは」とみる。ただ、「対象条件が厳し過ぎる」との声も上がっており、課題も残る。
2009年に国が創設した同制度は、過失の有無にかかわらず補償される。脳性まひの子どもと家族を支援するものだが、訴訟が多い産科の医師減少に歯止めをかける狙いもあった。
支給される補償金は3000万円。申請して支給が決まると、専門家が原因を分析する。「真実が知りたい」という家族の思いに応え、双方にとって負担の大きい訴訟を回避しようと、医療事故調査制度の先駆け的な側面もあった。
事故の分析進む
原因分析の積み重ねで事故例の傾向も見えてきた。例えば、陣痛促進剤の過剰投与、赤ちゃんを器具で引っ張る吸引や、出産中に母親のおなかを強く押す処置に問題のあったケースがあることがわかった。これを受け、診療指針の順守を全国の医療機関に呼びかけ、再発防止を図った。
申請の締め切りは5歳の誕生日。すでに確定した09~11年の支給件数を見ると、09年は419件、10年382件、11年355件と年々減っている。
制度を運営する日本医療機能評価機構が設置した原因分析委員会で委員長を務める愛育病院(東京)の病院長、岡井
同機構が行った調査では、原因分析について、「とても良かった」「まあまあ良かった」と回答した医療機関は74%、保護者は65%といずれも高かった。
訴訟も減っている。最高裁によると、産婦人科関連の訴訟で判決や和解など何らかの形で決着がついた件数は05年は149件だったが、15年は50件と3分の1になった。
ただ、分析した4割近くは「原因不明」。岡井さんは「まだわからない部分も多い。この制度によって、産科医療レベルの底上げを図り、脳性まひの発生を減らしたい」と話す。
支援外れる人も
しかし、この制度は脳性まひ全てが対象ではなく、支援からこぼれ落ちる人もいる。出産時の週数や出生体重など細かい条件があり、早産や重症でない場合は除外される。
3歳の長女が脳性まひだが、重症ではないため申請を諦めた神奈川県の主婦(40)は「補償金の問題だけでなく、長女が脳性まひになった原因を知りたかったし、今後の医療に役立ててほしかった」と唇をかむ。
3歳の次男が申請できるかどうか問い合わせたが、重症度が基準に合わず対象外だった東京都の主婦(34)は「子どもや家族の支援より、産科医を訴訟から守る制度だと感じた」と話す。
脳性まひの子どもと家族でつくる「かるがもCPキッズ」代表の江利川ちひろさん(41)は「脳性まひの子どもや親は、この制度の対象かどうかにかかわらず支援を必要としている。脳性まひ全体に目を向けた支援制度を整えてほしい」と訴えている。(竹井陽平)
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