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田村編集委員の「新・医療のことば」

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「種まき試験」…農作物の話?いえ、新薬です

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「種まき試験」…農作物の話?いえ、新薬です

 医療の世界に「種まき試験」という言葉があります。

 「種まきって、農業の世界の話じゃないの?」

 「いろいろな植物を育てて、有効な薬の成分を見つけ出す研究のこと?」

 いえいえ、薬の臨床研究の話です。

 「種まき試験」という言葉は、「本当の狙いは、販売促進なのでは?」と思われるような研究を 揶揄(やゆ) する時に使われます。ですから、研究を行っている当事者が「これは種まき試験です」と言うことはあり得ません。第三者が、「あれって種まき試験じゃないの?」という具合です。

主目的は販売促進

 では、なぜ「種まき」というのか。

 たとえば、自社の新薬への切り替えを目指す製薬会社は、ライバル社の既存薬を使う患者と、新薬を使う患者を比較する臨床試験を企画することで、新薬を使ってもらえる機会が設けられます。臨床試験が大規模になれば、それだけ多くの人が使うことになります。うまくいけば、臨床試験が終わった後も使い続けられる可能性があります。こうなると、臨床試験によってまかれた種が、見事に成長したということになるわけです。

 医学論文のデータベースを検索すると、「Seeding Trial(種まき試験)」という言葉は、1990年代の終わり頃から登場するようになりました。これは、製薬企業から資金などの提供を受けている研究の信頼性を、どう担保するかという問題が注目されるにようになった時期と一致します。

 薬をめぐる研究不正問題に詳しい桑島巌さん(臨床研究適正評価教育機構理事長)は、著書「赤い罠」の中で、「種まき試験の研究目的に科学的意味はほとんどない」と指摘しています。

患者にはメリット少なく

 種まき試験で最も問題なのは、「患者にとってほとんどメリットがないこと」と、桑島さんは指摘します。そもそもの研究目的が無意味なため、患者に役に立つような成果は期待できないことや高額な新薬に変えることで医療費もかさむこと、さらには新薬には未知の副作用のリスクも伴うことなどが理由です。このほか、日常診療の中で行われる場合、その費用が公的医療保険によって負担されるのも問題でしょう。

 こんな言葉が使われずに済む世の中に早くなればよいのですが……。(田村良彦)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)
1986年、早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で医療報道に従事し連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。2017年4月から編集委員。共著に「数字でみるニッポンの医療」(読売新聞医療情報部編、講談社現代新書)など。

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