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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

副作用に神経質すぎて、薬物の恩恵を受け損ねるのは本末転倒

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副作用に神経質すぎて、薬物の恩恵を受け損ねるのは本末転倒

 厚生労働省は、100以上ある妊婦禁忌薬のうちタクロリムス、シクロスポリン、アザチオプリンの3薬を禁忌薬から除く方針を固めました。

 この3薬は、臓器移植後の拒絶反応抑制や、膠原病など比較的難病の治療薬として広く用いられています。

 ベーチェット病(眼科的には重症な再発性ぶどう膜炎の原因となり、皮膚、粘膜、関節など全身の再発性炎症を繰り返す難病)ではシクロスポリン、 重症筋無力症 ではタクロリムスが眼科で扱う可能性のある適応薬です。

 さらに、タクロリムスとシクロスポリンは「春季カタル」という難治性再発性のアレルギー性角結膜炎に適応のある点眼薬があり、タクロリムスは妊婦禁忌薬指定なので、厚労省の方針は眼科と無縁ではありません。

 禁忌薬でない薬剤でも大半が妊婦、授乳婦には「慎重投与」とされ、添付文書に以下の記載が必ずあります。

 「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」

 なぜわざわざ、このような記載をするのでしょう。

 一つには、妊婦での臨床試験は危険が伴うので行えないため、安全性に関した科学的証拠を得にくいことがあります。

 動物実験や、当該薬剤投与中に流産などの事例報告があった薬物が、妊婦禁忌にされたと思われます。当然、流産や奇形は自然発生することもあります。当該薬物が「自然発生」より高頻度で問題が発生しているかどうかまでは検証せずに、指定された可能性が高いのです。

 もう一つは、日本の文化からくるものです。

 日本人は薬好きといわれますが、薬に対する根拠の薄い過度な信頼がある一方で、副作用には過剰に反応します。薬だから副作用があるのは当たり前という意識が薄く、もし使用中に不調があれば、薬のせい、医師のせいにしがちです。

 病状悪化は薬のせいだと即断し、薬とは別の原因で生じたかもしれない心身の変化も薬のせいと決めつける頑固な言い分に、外来で 辟易(へきえき) することは確かにあります。

 さらにこれは、誤解が氷解されないまま製薬会社や厚労省の責任を問うといった徒労な過程に進みかねないため、禁忌や慎重投与を強調して予防しているのかもしれません。

でも、禁忌、慎重投与に神経質になりすぎて、せっかくの薬物の恩恵を受け損ねるのは本末転倒でしょう。

 ある調査によると、米国の妊婦禁忌薬の数は日本の5分の1程度しかないそうです。

 薬に多少の副作用があるのは当然で、それでも主作用で恩恵を受けるならうまく利用しようという欧米人特有の文化、考え方が前提にあります。加えて、米国では薬物の市販後調査が徹底しており、膨大なサンプル数の統計処理ができるため、妊婦への悪影響は自然よりも高くないとの科学的データを得て禁忌薬を減らしてゆく施策が影響しているでしょう。

 副作用を恐れる患者心理は無視してはいけませんが、患者自身も「治療上の有益性」と「不都合な症状の存在」を冷静に医師とともに判断する患者力、科学的思考が求められるのではないかと思います。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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